関西に生息するアヤシくてオモロい人たちに、大阪出身・京都在住の人気ライター・吉村智樹が直撃インタビュー!
■吃音の悩みを河内音頭で克服関西随一の“エンカイテーナー”
大阪に夏を呼ぶ風物詩といえば、河内音頭だ。河内音頭といえば、この人。デビュー50周年を迎えた桂文福さん(69)は、落語界でたった一人しかいない「河内音頭の音頭取り」としても知られている。
「子どもの頃からレコードが大好きでした。浪曲、相撲甚句、民謡などをよう聴いていたんです。特に河内音頭は、レコードと同じように歌えるほど、聴き込んでいました」
彼は和歌山出身。集団就職で大阪の印刷会社に就職した。半年ほど勤めた頃、会社が休みの日に「吉本新喜劇を観に行こう」と、今はなき、なんば花月を訪れる。そこで初めて観た三代目・桂小文枝(のちの五代目・文枝)の落語に衝撃を受けた。
「なんて面白い人やと驚きましてね。紀州弁丸出しで“おいやん、弟子にしてけえ!”と直談判したんです。師匠は怒って“いね!(帰れ)”と相手にしてくれませんでしたが」
若気の至りで、敬語も使わず弟子入りを志願した文福さん。最初は拒絶していた小文枝師匠だったが、周囲から「こんなにおもろいキャラクターは他におらん」と諭され、弟子入りを承諾した。
そんな彼に「河内音頭をやってみないか」と提案したのも、実は小文枝師匠だったという。そこには意外な理由があった。
「私は幼少期から吃音に悩まされていましてね。落語も“しっかり、しゃべらないかん”というプレッシャーから、芸が硬くなっていた。そんな私の将来を案じた師匠が、“おまえは河内音頭ならスラスラと歌えるんやから、真剣にやってみたらどうや”とアドバイスをくれたんです」
■河内音頭のおかげで落語家として開花!
これまで落語家の宴会などで河内音頭を披露し、仲間を楽しませていた文福さん。その様子を見ていた小文枝師匠は、「河内音頭のリズムを落語に生かすことができれば、彼の吃音が和らぐのでは」と考えたのだ。
そんな彼に昭和58年、大きなチャンスが訪れる。それは、ラジオ番組で企画された「24時間マラソン河内音頭」だ。
「夜の11時頃に、さすがに疲れて倒れそうになりました。そこへ師匠が、“文福、これを食べて頑張れ”と、スッポン鍋を持って応援に駆けつけてくれた。あのときは、ありがたくて、涙が出ました」
この24時間河内音頭が評価され、同年に日本放送演芸大賞ホープ賞を受賞。音頭の各師匠から認められた自信から、落語にも華やかさと柔らかみが増した。現在では弟子7人、孫弟子2人を抱え、皆、それぞれに味を出している。
「河内音頭の魅力は、みんなが笑顔になれる一体感ですな。私は来年70歳。生涯現役。落語も河内音頭も“エンカイテーナー”として、まだまだやりまっせ!」
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