人生に役立つ勝負師の作法 武豊
偉大な馬、尊敬する先輩たちへの思い



競馬学校で同期だったマサヨシ(蛯名正義)を男にしたサラブレッド、エルコンドルパサーが顕彰馬に選出されました。

顕彰馬とは、中央競馬の発展に多大な貢献をした馬のことで……わかりやすく言うと、殿堂入りのようなものです。

それだけに、選ばれた馬も錚々たる顔ぶれ。
クモハタから始まり、セントライト、クリフジ、トキツカゼ、トサミドリ、トキノミノル、メイヂヒカリ、ハクチカラ、セイユウ、コダマ、シンザン、スピードシンボリ、タケシバオー、グランドマーチス、ハイセイコー、トウショウボーイ、テンポイント、マルゼンスキー、ミスターシービー、シンボリルドルフ、メジロラモーヌ、オグリキャップ、メジロマックイーン、トウカイテイオー、ナリタブライアン、タイキシャトル、テイエムオペラオー、ディープインパクト、ウオッカと続き、エルコンドルパサーが30頭目になります。

僕も活字や写真でしか知らない馬。
映像を見たことのある馬。
憧れの目で追っていた馬。
ライバルとして闘った馬。
ともにターフを駆けた馬……
競馬に携わるものとして、忘れることのできない名馬ばかりです。

EI Condor Pasa――コンドルは飛んでいく。

アメリカで生まれ、日本で調教された彼と、直接、闘ったのは2度。1度目は1998年の「NHKマイルC」で、優勝したのはエルコンドルパサー。僕とマイネルラヴは7着でした。
2度目は、同じ年の「毎日王冠」です。このときは、エルコンドルパサーとマサヨシのコンビに、2馬半差をつけ、僕とサイレンススズカが優勝しています。

しかし、エルコンドルパサーの名を世界に知らしめたのは、なんといっても、翌99年に行った、半年に及ぶフランスに滞在しての世界挑戦です。なかでも「凱旋門賞」のレースは、今、思い出しても心が震えます。

最後の直線。モンジューとの火の出るような激しい叩き合い――当日、同じくアグネスワールドとともにフランスに遠征、GⅠ「アベイユ・ド・ロンシャン賞」で優勝した興奮をそのままに、ロンシャンのスタンドから見ていた僕も、思わず、「行けーッ!マサヨシ!!」と叫んでいました。

結果は半身差の2着。
しかし、「日馬本馬、ここに在り!」を証明してくれた価値ある2着だったと思います。

また、JRA60周年となる今年は、6人の先輩が顕彰者として選出されました。

元騎手からは、岡部幸雄さん、河内洋さん、郷原洋行さん、柴田政人さんの4人。元調教師からは、伊藤雄二さん、松山康久さんの2人。みなさん、心から尊敬する先輩であり、今もお世話になっている先生たちです。

気がつくと後輩が増え、ベテランと呼ばれる年にななった僕ですが、先輩たちの背中を追い、必至になって追いつこうとしてきた時代がありました。

――少しでもうまくなる。

その気持は今も変わらず持ち続けています。


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