金利は10日で5割、通称トゴ。

10万円借りると、10日後の返済額は元金10万円と利息5万を合わせ、15万円に膨れ上がる――。

こうした天文学的な暴利をむさぼる違法な金融、いわゆる「闇金」を営むウシジマくんを主人公にした漫画『闇金ウシジマくん』の連載が『ビッグコミックスピリッツ』で始まったのは、ちょうど10年前、2004年のことだった。

現在、単行本は30巻、累計800万部の大ヒットとなり、12年の第1弾に続いて、この5月16日(金)から、映画『闇金ウシジマくんPart2』が公開される。

債務者が地獄に落ちる様を描き続けてきたのが、原作者・真鍋昌平氏だ。
作品の最大の魅力であるリアルさは、綿密な取材によって支えられている。

真鍋氏が見てきた、欲まみれの地獄絵図とは――?

「カネを借りたら、債務者は当然、早く元金を返したいものです。ところが、闇金業者は暴利の利息で食っている。それで、変な理屈をつけて元金を受け取らないんです。たとえば、債務者が1秒でも待ち合わせに遅れたとします。すると、闇金業者は、そうした本当に些細なところに全力で難癖をつけるわけです。"お前は人間としてダメだ。どうしようもない弱いヤツだ"って、本当にしつこく何時間も言い続ける。そして最後に"だから元金は受け取らない。利息だけ払えばいい。オレの言うことを聞け"とやる。ある種の洗脳ですよね。理屈も何もないんですが、債務者は元金を返済できるのに、利息だけ払って帰ることになるわけです」

闇金業者の手腕とは、いかに元金を回収するかではなく、いかに借り手との人間関係を作り、元金を返済させないかというところにあると、真鍋氏は言う。

「その結果、元金は5万円だったのに、実際に支払った額は800万円以上、なんてことはザラですね。それで、業者がたまに債務者に与えることもある。高いワインを送ったりするんです。おカネ借りている人が、ワインもらってうれしいかと言えば、うれしいはずがないんですよ。でも、そうやって感謝させる道を作って"これだけやってんだから仲良くして、もっと関係を深めよう。俺のこと好きだろ?"って感じなんです。基本的に債務者は心が弱いから、関係を続けることになってしまう。闇金業者たちは、人間をすごくよく見ている。頭いいですよ、やっぱり」

ただし、その巧みな取り立ての背後には、常に暴力が控えている。

「喫茶店など公衆の面前で、債務者をいきなり平手打ちするんです。それって、ものすごく恐いでしょう?今は、昔に比べれば控えているようですが、足を持ってビルの屋上から逆さ吊りにしたこともある、と言ってましたね」

取材対象者には当然、強面(こわもて)の人間もいる。
緊張する場面もあった。

「"アイツは人を殺してる"という噂があった人に、取材したときですね。やっぱり面と向かうと、何をするかわからない、という緊張感がありました。人間ではなく、非常に動物っぽい、という印象です。それで、噂のことを聞いたんですよ。"本当なんでしょうか"って。そうしたら"ああ、車で轢いたんだよ"って、さらっと言ってました。"だって、ぶん殴ると手が痛いだろ?だから轢いた"って、平然としてましたね」

今回の映画では、ホストにハマって借金を重ねる高校中退のフリーター・彩香を演じた門脇麦が体当たりの演技を見せている。

「知り合いのライターさんに、歌舞伎町で拾った14歳の女の子が書いた日記のコピーをもらったんです。そこにはホストにどれだけ貢いで、自分が風俗でどうやって稼いだとか、稚拙だけど、すごく克明に書かれていました。ものすごいリアルだったんですね。その内容に加えて、オーナーも含め、全部でホスト60人ぐらいに会って取材しています。作品にも描きましたが、ホストはモテてモテてしょうがないからなるもので、モテたくて来るところじゃない。それを勘違いしている人が多い印象です。だから、ほとんどの人が最初の研修期間の3か月で辞めていきますね。そういう取材をもとにして、ホストと、そこにハマる少女のエピソードを作り上げたんです」

倫理観や性のモラルの喪失が叫ばれる現在の日本だが、真鍋氏はこう見る。

「昔なら売春をやるとしても、どこに行っていいかわからなかった。でも、現在はネットで簡単に調べられる。そういう環境の変化も大きいと思いますね」

今年で10年になる『闇金ウシジマくん』だが、連載開始当時の背景は、どのようなものだったのか?

「連載開始は04年でしたが、闇金のピークが02~03年ぐらいでしたね。僕自身で言えば、その前の連載が打ち切りになり、次、うまくいかなかったら漫画家としてやっていけないという状況でした。それでウシジマくんみたいな、冷酷な人物がおもしろいのでは、と思ったんです。人情話では中途半端で印象が残らないから、徹底的にやろう、と思っていました」

人にとって最も辛いことは…

ちなみに03年には、「五菱会事件」が明るみに出ている。
これは山口組直系組織が関わっていたとされる闇金事件で、多重債務者リストをもとにカネを貸しつけ、返済期限が近づくと、別の傘下業者がまた新たに債務者にカネを貸し、被害額を膨らませていった。

被害者は約5500人にものぼり、被害額は約160億円にも達したと言われている。
この事件を機に、「ヤミ金融対策法」が成立し、最高懲役が5年に強化されることになった。

作中で、ウシジマくんはこのように語っている。
《「俺達闇金の客はよ、社会の最底辺ギリギリの連中だ。銀行はモチロン、大手消費者金融から見放されたブラックリストの連中だ」「人並み以下のクセに人並みに暮らしてる、身の程知らずのクズどもに終止符を打つのが……俺達闇金の仕事だ!!」「奪るか奪られるかなら、オレは奪る方を選ぶ」》

ここまで過激な言葉を放つウシジマくんを、作者である真鍋氏はどう思っているのだろうか。
「たしかに、ウシジマくんは債務者からカネを奪い、地獄に突き落とすような真似をしています。でも、その一方で、貸している相手に個人として向き合っている。人にとっていちばん辛いのは、無関心だと思うんです。もしかしたら、そこできちんと向き合ってくれる人を欲しがる人が、相当いるのかもしれません」

『バイトくん編』『ヤンキーくん編』『ホストくん編』など、それぞれ債権者を中心にした各エピソードで、現代社会の闇を描いてきた真鍋氏。

「毎回、もういいかなと思いつつ、また、おもしろいテーマが出てくるという、その繰り返しですね。最終章をどうするかは、実はもう考えてあるんです。最後はすごく派手な話にしたい、と思っています。内容は……内緒ですね」

ウシジマくんを山田孝之が演じ、綾野剛、菅田将暉、中尾明慶、窪田正孝、やべきょうすけら豪華キャストが出演する映画『闇金ウシジマくんPart2』は5月16日(金)から公開予定。

『ヤンキーくん編』『ホストくん編』のエピソードを中心に、カネに惑い、欲に溺れる男と女の剝き出しの姿を描き出す必見の作品だ。

映画『闇金ウシジマくんPart2』
公式サイト■http://ymkn-ushijima-movie.com/

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