アダルト雑誌の編集者である文月くんは、夏風邪もひいて頭はボーっとしっぱなしだった。他にもいろいろ嫌なことが続き、すべての人間関係に疲れ、といってどれも断ち切ることはできず、誰も自分を知らない遠くに行きたいと本気で思っていた。

そんなある休日、またあの路地裏に来てしまった。ぼんやり歩いていたら、いつの間にか隣に陰気な女がいた。まるで文月くんの連れであるかのように、寄り添っていた。
気になっていたヌードモデルのジュラちゃんではなく、一度ホテルに行った立ちんぼ女だった。浅黒い肌に、ばさばさの髪。なんとなく腹がふくらんでいる気もする。袖口から、煙草の火を押しつけた痕が見えた。そんな女が彼を見上げ、こういった。
「私を探してたでしょう。このまま、私と一緒に行きましょう」

その笑顔が愛想でも好意でもなく、底知れぬ悪意と邪気に満ち満ちていたそうだ。文月くんは、ちょっと急ぎますから。そういい捨て、立ち去った。

それから一週間ほど経った熱帯夜。文月くんが繁華街の裏道を歩いていたら、不意に電柱の陰にいた女に呼び止められた。あの女だった。例の、邪悪な笑みを浮かべていた。彼は何もいわず、また急いで逃げた。それ以来、妙な女には会ってない。

文月くんの最悪な人間関係や仕事は、やや改善された。ジュラちゃんに会いたい気持ちも、あの立ちんぼとやりたい気持ちも、失せていた。二人とも官能的な体つきではあったが、肌も女性器の中も荒れていた。

「なるべく、思いつめないようにしている。またあの女が現れたら、今度こそついて行ってしまいそうだ。見知らぬ町で、あの女と一緒に生きるのも嫌だし。腹の子を、あなたの子よ、なんていわれて育てさせられるのも怖いしな」


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