9月27日に爆発し、戦後最悪の犠牲者を出した木曽御嶽山。捜索活動は10月上旬になった今も続いていますが、関東甲信越に居住する人にとって、「200キロも離れていない富士山は大丈夫か?」と心配になる人も多いでしょう。

現在、気象庁は5段階の噴火警戒レベルを全国の30火山で運用しています。桜島や阿蘇山のような、いまも活発に噴煙を上げる火山が指定されているのはもちろんですが、小規模な噴煙を上げる山や、過去噴火した山……富士山にも適用され、常に観測が続いています。

そんな富士山の噴火の可能性として、巷では「富士山はプレートが沈み込む地震の巣の上にある」「若い火山である」といった理由から、すぐ噴火するのでは? と危険視する声もあります。また、同じ噴火警報レベル1でありながら、御嶽山が爆発したのはなぜなのでしょうか。

今回はそんな疑問を、火山観測の最前線で働く、気象庁火山課の菅野さんに聞いてみました。


――富士山の直下は、地震の原因のひとつである、プレートが複数交差する場所にあるといいます。そんな地震の巣のような構造が幾重にも重なっている場所は、マグマが常に供給され、非常に危険なのではないでしょうか?

気象庁火山課・菅野さん
富士山の直下は、ふたつの大陸プレートと、ひとつの海洋プレートが合わさる、地質学的に見て非常に特殊な場所です。これを三重会合点といいますが、それが原因で富士山が噴火するわけではありません。もしそれが大きな原因なら、三重会合点にないのに現在活発に活動している火山との整合性が取れませんよね。
富士山の噴火を引き起こすマグマは、三重会合点のはるか下まで、太平洋プレートが沈み込んでいることにより生まれています。ですので、確かに富士山は特殊な場所にあるが、それが噴火とどのような関係があるのはよく分かっておらず、あるかも知れないし、無いかもしれない、ということです。


―― 一般的な火山は30~50万年ほど活動すると言われていますが、富士山が活動を始めたのは1万7000年ほど前と聞き及んでおります。この、「火山年齢が若い」ということは、老齢の火山に対し、活動が活発であると考えていいでしょうか?

気象庁火山課・菅野さん
活火山である以上、その活動期間を通して、いつでも噴火する可能性があります。ですので、必ずしも、火山が噴火し始めて山体ができあがった時期が一番活発で、その後徐々に活動が弱まるというわけではありません。日本に活火山は現在110ありますが、富士山を含めどれもがいつ噴火してもおかしくありません。


――もしも、という仮定ですが、富士山の活動が劇的に活発になるとしたら、何か外的な要因が考えられるのでしょうか? 一説には、南海トラフ地震が引き金になるのでは? と言われていますが……。

気象庁火山課・菅野さん
確かに1707年の宝永噴火の49日前には、江戸時代の南海トラフ地震と言われる宝永地震が起こりました。それが、富士山の噴火の最後の一押しになった『可能性』はあります。ただ、南海トラフ地震は、百年から百五十年に一回は起こっているにも関わらず、そのたびに富士山が大噴火したという1対1の対応はありません。
火山には地震と違う独自の準備期間があり、地震=即噴火かどうかは、いまのところ分かりません。ただ東日本大震災が起こった4日後の、2011年の3月15日、富士山直下でM6.4の地震が発生した時には、我々も注意深く富士山を見守りましたが、特に富士山に変化はありませんでした。


――今回の御嶽山では、気象庁の運用する噴火警戒レベルが1だったにも関わらず、大きな被害が出てしまいました。

気象庁火山課・菅野さん
まずは、今回の御嶽山で被害に遭われ、お亡くなりになられた方のご冥福をお祈りし、捜索に携わっている方々の無事をお祈りします。
さて、まず噴火警戒レベルですが、これは、火山性地震や微動、GPSや傾斜計による地殻変動観測、噴気の様子などの観測結果に基づき、火山活動の状態を総合的に判断して運用しています。現在は地下からマグマが上がってきて噴火するまでをかなりの精度でモニタリングできており、実際に桜島などでは、地下にマグマが溜まりつつある様子や、噴火後に火山からマグマが抜けた様子などを観測できています。
一方、今回の御嶽山で発生した噴火は、マグマが地上に噴出するマグマ噴火ではなく、『水蒸気爆発』でした。これはマグマの熱で地下水が加熱され、火にかけたやかんの蒸気のように、山体という蓋を持ち上げ蒸気が噴出する現象です。すでに浅いところに存在している地下水により引き起こされるため、マグマが移動してくるマグマ噴火に比べると、前兆現象が乏しいという特徴があります。
爆発直前、10分前には火山性の微動が、7分前には山体のわずかな膨張も観測されていますが、非常に残念ながら、水蒸気爆発が起こる前に警報を発表することは困難でした。


――最後になりますが、現在の富士山は、マグマ噴火もしくは、水蒸気爆発を起こす危険性はあるのでしょうか?

気象庁火山課・菅野さん
富士山では、1707年の宝永噴火以来、300年以上にわたり噴火は発生していません。また、今年の6月に開催された火山噴火予知連絡会では、『2011年3月15日に富士山直下で発生したM6.4の地震以降、地震活動が低下しつつも継続しているが、その他の観測データに異常を示すものはなく、噴火の兆候は認められない』と評価されているところです。そこで、現在の富士山は噴火警戒レベル1、平常に登山ができるレベルです。
一方、富士山が活火山である以上、いつか再び噴火が発生することは避けられません。そして、富士山の噴火には様々な様態があり、次の噴火がどのような規模・様式の噴火となるかについて現時点では分かりません。
しかし、富士山の火山観測体制は充実しており、前兆が捉えられる噴火に関しては、過去の噴火に関する知見も最大限に活用しながら、気象庁では警報を発表してレベルの引き上げを行います。
対して水蒸気爆発ですが、富士山で過去に起こった事例は承知していないのですが、今回の御嶽山に限らず、前兆現象が明瞭に出ない可能性があることから、注意が必要だと思います。


今のところ御嶽山の水蒸気爆発と富士山の噴火には、明確なつながりはないとのこと。ただ、火山に登るときは、常に最新の情報を掴んでおき、危険の兆候がほんの少しでもあれば避難するという心構えが必要だということでしょう。

気象庁火山課・菅野さん、ありがとうございました!

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