もう十年以上、新宿歌舞伎町に住んでいる。東洋一の歓楽街だの不夜城だの、不穏にしてきらびやかな形容のつく街だが、私は怖い思いをした覚えがない。変な薬も使用した経験がない以前に、一度も誘われたり売りつけられたりしたこともない。

しかし、昔からテレビやネットなどで見て不思議に思っていた。同じ違法薬物常習者でも、見るからに中毒者といったボロボロの風貌になって廃人化する人と、見た目も変わりなく生活も普通にできる人に分かれるのは何故だろう、と。

「楽しみでやる人は、適量を守れるからですよ。逃避の手段に使う人は、だんだん量も増えていくから心身ともに傷む。もちろん楽しみでも、やっちゃいけないんだけど」
と答えてくれたのは、近所に住む女性タレントだった。仮に冬美としておく。

冬美の言葉に、なるほどと感心した。違法薬物と一緒にする訳にはいかないが、酒も同じだ。
オカルト的世界に興味のある人も、ただ楽しみとしている普通の人と、変な方向にのめり込んで病んだり、私生活に支障をきたしたりする人もいる。私のように、その道のプロ? になってしまう人もいる。

そして冬美は、こんなふうに話を続けた。
「昔、彼氏と妹三人で暮らしてた時期があるんです。今だからいえますが、当時の彼氏が悪い薬やってました。冷蔵庫のジュースの瓶に、薬物を溶かし込んでたんです。知らずに妹が、それ飲んじゃったんですよ。もちろん妹はそんなもの未経験だし、お酒も飲めない子だから少量でもブッ飛んで、すごく怖いことが起こりました」

冬美も昔はやってたんだろうな、と直感した。あくまでも、セックスの楽しみの一つとして。今はきっぱりやめている。だからこんなに、セクシーできれいでいられるのだ。

クリスマスの飾りつけの華やぐ夜の街で、冬美はふと重いため息をついた。


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