ロシアにとって「熊」は国を象徴する動物であり、ロシア帝国やソ連は、その強大さや脅威性から「北国の猛獣熊」と例えられるほどだった。それほど馴染み深い動物のはずなのに、なんと、ロシア語には「熊」を表す固有の単語がないのだ。これには「くまのプーさん」だってビックリだろう。

そのかわり、ロシア語では「熊」のことを「メドヴェーチ(Медведь)」と言われている。これは『蜂蜜を食べるもの』という意味。
この語は、 「ミョート(мёд)」=「蜂蜜」と、「ズナーチ(знать)」 =「知る」という語の古い形「ヴィェーダチ(ведать) 」が合成してできたものだそうで、つまり、「メドヴェーチ(Медведь)」というのは、もともとは『蜂蜜のありかを知るもの』という意味らしい。これが熊をあらわす言葉になったのだ。
現在のロシア連邦首相・メドヴェージェフの名前も同じ『蜂蜜を食べるもの』の意味で、落語だったら「蜂蜜好きの熊さん」なんて呼ばれそうだ。

では、どうして『蜂蜜を食べるもの』と遠回しに呼ぶことになったのか。
実は、昔はロシアにも「熊」を意味する固有の言葉があったらしい。しかし、人々にとって「熊」は畏怖の対象だったため、その言葉を口にすることを避けられた。森の中でその言葉を口にすると、「熊」が本当に出てきて、襲われてしまうと信じていられたのだ。
今となっては、それがなんという言葉だったのか、知ることもできないくらいなので、よっぽど恐れられていたのだろう。日本でも、地方によっては「熊」と呼ばず、「山親爺(やまおやじ)」と呼んでいたのも、同じ意味があったそうだ。

しかし「メドヴェーチ(Медведь)」という言葉も、「熊」を意味しているということで、これさえも口にすることを避ける人も出てきた。そこで、人名の「ミハイル(Михаил)」とか「ミーシャ(Миша)」とつけて呼ぶようになった。1980年のモスクワオリンピックのマスコットの小熊の名前が「ミーシャ」だったのも、うなづける話なのだ。

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