如月と名乗る男に直接の危害は加えられなかったが、ストーカーとして警察に突き出すことになった美熟女タレント梅香。彼女は若い頃の、別の怖い男の話もしてくれた。
「警察沙汰にもしたから、彼もストーカー行為を止めたと思ってたんですが。実は交通事故で入院してたんです。でも私は、これで彼と縁が切れると安心するとか、さすがに可哀想とかじゃなく、憎しみと恨みでいっぱいになりました」
彼の入院している病院に行ってみたら、そんな重傷ではないものの、ベッドからまだ動けない状態になっていた。彼の親は、息子が梅香に嫌がらせをしていたことなど知らされていなかったから、見舞いを好意的に受け止めてくれた。
梅香は病院に通うようになった。恋人としてではなく、まるでストーカーのように。
彼も最初は怖がっていたが、梅香の笑顔と優しい言葉に安心したようだ。そして梅香はある日二人きりになると、泣き真似をしてささやいた。当時から、彼女は女優だった。
「みんな内緒にしてるけど、あなた、もう一生歩けないどころか起き上がることもできないのね。お父さんは大借金を背負って、お母さんと死ぬことばかり考えているって」
梅香の嘘にうめく彼に背を向け、家に戻った。何日かして、塗り替えたはずの塀に彼がかつて書いた字が浮き出てきて、はっきりと読めるようになった。不思議なことに書かれた文字は「死ね」だったのに、「死ぬ」と読めるようになっていた。
その翌日、彼は力を振り絞って病室の窓を開け、転落して死んだ。
梅香も親には彼が死んだことは黙っていたし、ましてや、自分が死に追いやったなどいえるはずがなかった。しかし、親も浮き出た字を恐ろしく思い、塀を取り壊してしまった。
「彼と如月は別人なんだけど。彼が死んだのは二月。そう、二月は如月ともいうわね」
※この物語はフィクションであり、実在の人物とは一切関係ありません。
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