プロ野球「奇跡の大逆転」感動エピソード

球球史をひも解くと、大差を引っくり返した試合が、いくつか目につく。勝利を決して諦めないアスリート魂が生んだ"奇跡の大逆転劇"を、感動エピソードとともに紹介!

93年6月5日藤井寺球場
"意外性の男"マムシの山下が 記録的大逆転の口火を切った!


ロッテVS近鉄


攻撃のチャンスは、この回しかない。9回裏という崖っぷちでの逆転劇はある意味、野球の醍醐味だが、あまりに点差が離れていれば現実的に難しい。
そんな9回裏での逆転劇のプロ野球日本記録は現在、6点差である。9

3年6月5日、近鉄の本拠地・藤井寺球場。9回表に突入した時点で3点リードしていたダイエーは、さらに3点を追加、スコアを8-2と広げた。
絶望的と思われる点差だが、9回裏の先頭打者・石井浩郎がダイエーの渡辺正和投手から四球を選んだところから、近鉄の反撃が始まる。

鈴木貴久のタイムリー二塁打などに、ダイエー投手陣の四球、暴投などが重なり、あれよあれよという間に4点入れ、2点差に。この厳しいタイミングで救援を任されたのが下柳剛投手。1安打を許すものの、アウトを2つ取ったところで、強打者のブライアントを敬遠し、満塁策をとる。

ここで、代打としてバッターボックスに立った山下和彦は、"マムシ"の異名を取る二番手捕手。そのいかつい顔つきと、時折放つ長打でファンの心を掴んでいた"意外性の男"だ。山下は「かっ飛ばせ、マムシパワーだ、山下~」というドラえもんのテーマをもじったような応援歌に乗って、打席に入った。

「この"意外性の男"の登場に近鉄ファンの多くが、奇跡を期待したと思います。ちなみに山下は、しつこいリードをするからマムシと呼ばれていたと思われていますが、実は遠征中に河原に現れたマムシを石で叩いて食べたという逸話から来ています」(在阪記者)

ここで、そのマムシパワーが炸裂する。下柳が投げた渾身の球を山下のバットが弾き返すと、センターへ抜ける。二者が生還。この時点で同点だ。一塁走者のブライアントも三塁に向かう。ここで、センター・大野久の三塁送球が走者・ブライアントに当たるというアクシデントが起きる。ブライアントは、そのままホームを踏み、それがサヨナラの決勝点となった。
まさに"意外性の男"の面目躍如である。

一方、敗れたダイエーの根本陸夫監督は、この日、大阪のホテルへ戻ってから、全員を集め、こう謝った。
「今日はオレのミスで負けた。すまなかった」
下柳は後に、
「この人、なんてカッコいいんや、と思った」
と話している。

大逆転劇には敗者の側にもドラマがあるのだ。

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