麺や粉モノなどの名脇役として、味にコクを出してくれるのが「天カス」だ。「天カス」とは、天ぷらを揚げるとき、衣が散って玉状に揚がったもので、「揚げ玉」と呼ぶ地域もある。
2003年度にNHK放送文化研究所が行った調査では、全国で「天カス」と呼ぶ人が68%、「揚げ玉」が29%、「揚げカス」が16%という割合で、地方分布は、東海地方を含む西日本では「天カス」と呼ぶ人が全国平均より多く、関東甲信越と北海道では「揚げ玉」と呼ぶ人が多いという結果が出ている。
関西地方では「揚げ玉」に対する言葉の抵抗はほとんどないのだが、関東では「天カス」に対する言葉の抵抗感は非常に高い。これは名称に含まれる「カス」という言葉が、「愚劣」を意味する「クズ」と同義語であることから、下品だとされていたからだ。
そんな、呼び方は違っても同じ“物品”をさす「天カス」と「揚げ玉」なのだが、成り立ちと美味しさには違いがあるのをご存知だろうか。
「天カス」は天ぷらを揚げるさい、カスを油に残したままだと焦げてしまうため、網杓子ですくい取られた“揚げ物の副産物”だ。そのため、天ぷらの素材の切れ端などが入ったり、風味が混ざっていることがある。
対して、「揚げ玉」は食材商品として用いるため、“意図的に作られた”もの。均一な円形にするため、混ざりものがない、溶いた薄力粉を揚げたものが一般的になっている。
つまり、「カス」というマイナスイメージの名前がついているものの、いろんな食材の旨味を包み込んだ「天カス」のほうが「揚げ玉」よりも美味しいのだ。
ちなみに、北海道、東北、関東、九州では、「天カス」が入っているうどん・そばを「たぬきうどん」「たぬきそば」と呼ぶが、関西では天カスが入っているうどんを「ハイカラうどん」と呼ぶ。また、大阪の南河内地方の郷土料理である「カスうどん」は、「カス」といっても天ぷら由来ではなく、牛の腸を油で揚げ、余分な油分が抜けたものがトッピングされたもの。まわりはカリカリ、中はプルプルとした独特の歯ざわりで、香ばしい肉の旨味が凝縮された癖になる美味さなので、ぜひお試しあれ。