大森望の極楽アイドル沼 第3回
あの「アタックNo.1」が、アンジュルム主演で初の舞台化!
中年ハロヲタ的にはまさにど真ん中直撃の超高速スパイク! ということで、本番直前のゲネプロに駆けつけた。
原作はいまから半世紀も前のスポ根漫画だが、舞台版はそれをいまの物語にアップデート。努力と才能、チーム内の人間関係、厳しい練習、学業との両立などなど、現役アイドルにそのまま重なるテーマを、バレーボールに託して高らかに謳い上げる。いかにも昭和なアニメ版のテーマソングが、彼女たちの声を通じて、こんなにも今日的に響くとは。演劇女子部「アタックNo.1」は、漫画版もアニメ版もドラマ版も知らない観客にも通じる、ノスタルジーを排した普遍的な強いドラマに仕上がっている。
あらためて説明すると、アンジュルムは、ハロー!プロジェクト現リーダーの和田彩花が率いる10人組のアイドルグループ。このところ毎年のように増員をくりかえし、つい先日も、とつぜん新メンバーの追加を発表。11/23パシフィコ横浜のライブで、その新メンバー2人がお披露目されたばかり(ともに中学3年生、ハロプロ研修生北海道所属の太田遥香[おおた・はるか]と、Only Youオーディションから選ばれた伊勢鈴蘭[いせ・れいら])。
原作の『アタックNo.1』(浦野千賀子/集英社)は、1968年から3年間『週刊マーガレット』に連載された昭和のスポ根漫画の代表作。TVアニメ化され、1969年から1971年にかけて全104話がフジテレビ系で放送された。迫力のある試合シーンと、木の葉おとしに竜巻おとし、電光スパイク、三位一体攻撃など数々の必殺技が人気を集めた――というか、当時小学生だった大森はもろに直撃された世代なので、毎週わくわくしながら見てました。原作はちゃんと読んだ記憶がなかったのでこの機会にまとめて買ってみたけど、うーん……半世紀前の漫画とはいえ、さすがに古めかしい。これだけ大きなタイトルになったのは、やっぱりTVアニメ版の威力ですかね。
ともあれ、大杉久美子バージョンの主題歌は今もことあるごとにテレビで流れるし、2005年には上戸彩主演でドラマ化されているので、幅広い年代に知られている。昭和の少女ものスポーツ漫画/アニメとしては『エースをねらえ!』と並ぶぐらいに有名かもしれない。中学2年のうちの娘もタイトルは知ってて、「あのパンツがすんごい短いやつ!」と言ってました。すでにブルマーは死語か。
と、それだけ知名度があるにもかかわらず、『アタックNo.1』が舞台化されるのは、意外にも今回がはじめてだとか。舞台版は、鮎原こずえと、中学時代に(べつの学校で)ライバルだった早川みどりがともに富士見高校に入学し、バレーボール部に入部するところからはじまる。
なるほど、高校の話に絞るのか……というのはいいとして、あやちょ(和田彩花)が鮎川こずえ役と発表されたときに仰天したのは僕だけじゃないと思う。2019年の春ツアーをもってグループおよびハロプロを卒業することが発表されている和田彩花が、最後の舞台で主役を張るのは当然とはいえ、24歳のハロプロリーダーに、はたして熱血高校生が似合うのか? 原作だと中学生から始まるので、ますますイメージに落差が。しかも、おそろしく勝ち気なお嬢さまの早川みどり役が上國料萌衣って……。
というのは、もちろん百も承知だろうから、あえて冒険した――というか、思いきり攻めたキャスティング。演出の星田良子によれば、稽古がはじまった当初、高校生役を意識した芝居をしていた和田彩花に対し、「いまの和田彩花にしか演じられない鮎原こずえが見たい」とリクエストして、演技プランを変更させたという。
いざ舞台を観ると、まさにその言葉のとおり。和田彩花が和田彩花のまま、鮎原こずえになっている! 和田彩花の不思議さというか、奇妙な存在感が存分に引き出されて、それがそのまま天才・鮎原と融合する奇跡。上國料萌衣が目いっぱい(非常に達者に)芝居をしているのと好対照で、バランスも絶妙。
ナレーター的に進行を担当する鮎原こずえの姉・鮎原瞳(舞台オリジナルの役)を演じた勝田里奈はじめ、大沼みゆき役の中西香菜、真木村京子役の佐々木莉佳子、石原松枝役の室田瑞希、それに寺堂院高校・八木沢三姉妹役の竹内朱莉・川村文乃・船木結ふくめ、アンジュルム・メンバー全員に見せ場が用意されている。いままでとぜんぜん違うイメージの役という意味では、ひとりだけ眼鏡をかけて分析担当の小幡すずめを演じた笠原桃奈が印象的だった。
キャストはほかに、CHICA#TETSUの一岡伶奈、島倉りか、西田汐里、江口紗耶、演劇女子部の小野田暖優。鬼コーチ役で麻尋えりかが出演している。
脚本は保木本真也、演出は星田良子。舞台『アタックNo.1』は、11月29日から12月9日まで東京・全労済ホール/スペース・ゼロで上演される。
大森望の極楽アイドル沼
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