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【常夏の国の怖い話】 1/4話

2014-09-09

岩井志麻子のあなたの知らない路地裏ホラー

東南アジアに、好きな国がある。行くたび気持ちいいことがあり、怖いことがある。
今月はその国で体験したことを、まとめて書いてみたい。

──現地の知人が、きっとあなたが好きそうなものを見られると、ある場所に連れて行ってくれた。
最初から怖い場所だとわかったし、彼が私をどう思っているかもわかった。

最初、廃屋で獣を飼っていると見た。崩れかけた煉瓦とコンクリートのブロックで作られた、家ともいえない家。
壁の一面が半分ほど壊れているので中がのぞけるし、入ろうとすれば入れる。
家財道具は何もない。猛烈な糞尿の臭いがした。

そこに、性器もむき出しの全裸の女がいた。
冬でも何も着ないのだそうだ。
土や埃の汚れだけでなく、垢にも覆われている。
ひざを抱えてぼんやり、壁の一点を見つめていた。

知り合いによると、彼女はよそ者だがこの村の男を追ってきて、元はその男の家だったここに住みついた。
その頃は、ここまで荒れ果てていなかったそうだ。家も、女も。

しかし男は、しばらくすると他の女を作って逃げた。
彼女は行き場がない上に、男がまた戻ってくるとの希望を捨てきれず、ずっとここにいるのだという。

村人が可哀想に思って、着るものや食べ物などを差し入れてやっている。
けれど彼女は最低限の食べ物をもらうだけで、衣類や家財道具などは一切拒絶しているそうだ。

「あんな痩せこけて老けて垢まみれなのに、美しく色っぽい自分が裸でいれば恋しい男が戻って来たときすぐに抱いてくれる、そう信じているんだよ。家財道具などをもらわないのは、別の男に援助してもらっていると疑われたくないからだ」

彼は、あの女は狂っているから幸せだといった。
しかし彼女の目には正気の光もあった。
正気であのような生き地獄を選ぶあたり、私には太刀打ちできないものがある。

岩井志麻子(いわい しまこ) プロフィール
1964年12月5日生まれ
A型
高校在学中の1982年、第3回小説ジュニア短編小説新人賞に佳作入選。少女小説家を経て、1999年『ぼっけえ、きょうてえ』が選考委員の絶賛を受けて、日本ホラー小説大賞 を受賞。 半生を赤裸々に語るトークや「エロくて変なオバチャン」を自称する強烈なキャラクターが注目を集める。

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