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【残っている情欲】 1/4話

2014-10-07

岩井志麻子のあなたの知らない路地裏ホラー

旅人が突然、激しい空腹に襲われて歩けなくなる。
それは、その地で餓死した人の霊が取り憑くからだといわれている。

逃れるためには米粒を口にするか、なければ手のひらに米と書いて舐めてもいい。
……という、昔から伝わる恐ろしくも哀しい話だ。

戦場跡に行くとものすごい喉の渇きを覚え、これは戦死者が最期に水を欲しがった念が残っているのだから水を供えてあげなければいけない、といった話も聞いたことがある。

私は、どちらも経験したことはないが。
仮に秋子としておく女優の知り合いが昔、それらとは違うがどこか似ているような、奇妙な経験をしたと教えてくれた。

彼女はすでに熟女の域だが、ウエストも締まっていて肌の艶もいい。
いろいろと男性遍歴も離婚歴もあるが、根は真面目で堅い。
遊びでは男と付き合えない性格だ。

……それはもう、十年以上前の話だそうだ。
秋子がまだぎりぎり、若い女扱いされていた頃。
離婚して半年ほど経っていた。
言い寄って来る男もいたが、まだそんな気になれなくて独りでいた。
しばらくは男より仕事だ、と決意していた。

そんな頃、ドラマの撮影である地方に行った。
ちょうど今頃の、秋が深まってきた季節だったという。
そんなハードではないが、ラブシーンもあった。
相手役の俳優は特に好きでも嫌いでもなく、まったくの仕事の相手でしかなかった。

撮影は滞りなくその日の分は終わり、和気藹々と夕食も済ませ、明日は早いからとみんな真面目に早めに各自の部屋に戻った。

秋子も部屋に戻るまでは、何事もなかったのに。風呂に入ったとき、異変は起きた。
浴槽の中で突然、身もだえするような激しい性欲に襲われたのだ。


岩井志麻子(いわい しまこ) プロフィール
1964年12月5日生まれ
A型
高校在学中の1982年、第3回小説ジュニア短編小説新人賞に佳作入選。少女小説家を経て、1999年『ぼっけえ、きょうてえ』が選考委員の絶賛を受けて、日本ホラー小説大賞 を受賞。 半生を赤裸々に語るトークや「エロくて変なオバチャン」を自称する強烈なキャラクターが注目を集める。

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