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【残っている情欲】 2/4話

2014-10-14

岩井志麻子のあなたの知らない路地裏ホラー

今は熟女となった女優の秋子が、まだ若いといわれていた頃。
ロケ先のホテルの浴室で突然、何かに取り憑かれたかのように激しい情欲に身もだえしてしまったという。

元々、秋子は直截的な性欲より精神的な愛や恋の方が大事なタイプだったのに。
そのときは誰でもいい、どんな相手でもいい、とにかくやりたい、ひたすらやりたいと本当に身もだえしてしまったそうだ。

もやもやした色っぽい気分になる、なんて生やさしいものではない。こんな狂おしい性欲は、初めてだった。
スタッフも何人か同じホテルに泊まっていたが、真夜中にいきなり呼び出して相手などさせられない。

ホテルの従業員でも見知らぬ客でも、何でもいい誰でもいいから、すぐに裸で飛び出していって飛びかかりたい、やりたいという衝動を必死にこらえた。

ドラマの中では夫の役で、昼間はラブシーンも演じた俳優が隣の部屋にいるはずで、酔ったふりをして本気でこちらの部屋に呼ぼうかとも思った。

特に何かの感情は持っていなかった俳優だが、少なくとも嫌いなタイプ、生理的にダメな種類の男ではない。
ラブシーンはソフトだったが、離婚して以来久しぶりに生々しく触れた肌や吐息は、決して不快ではないどころか心地よかった。

もしかして、相手役の俳優のせいでこんな気分になったのか。
彼を好きになったのか。
思いがけずラブシーンがよくて、恋のようなものに錯覚したのか。

浴室の鏡に映る全裸の秋子は確かに秋子なのだけれど、ぎらぎらと血走った目や充血した部分は、まるで見知らぬ誰かのもののように感じられた。滅多にしないけれど、自慰をしてしまった。
鏡に映る自分は、普通の女優ではなくAV女優みたいだった。


岩井志麻子(いわい しまこ) プロフィール
1964年12月5日生まれ
A型
高校在学中の1982年、第3回小説ジュニア短編小説新人賞に佳作入選。少女小説家を経て、1999年『ぼっけえ、きょうてえ』が選考委員の絶賛を受けて、日本ホラー小説大賞 を受賞。 半生を赤裸々に語るトークや「エロくて変なオバチャン」を自称する強烈なキャラクターが注目を集める。

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