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レスリング一家の『人間力』 山本アーセン(レスリング選手)

[週刊大衆10月06日号]

レスリング一家の『人間力』 山本アーセン(レスリング選手)

ぼくは今、親元を離れて一人、ハンガリーで生活しているんです。
レスリングの武者修行のために。

13歳のときに、日本レスリング協会の福田富昭会長に"本当に強くなりたいならハンガリーに行け"って言われて"よっしゃ、強くなって帰ってくるぞ"と勢い勇んで決断しました。

でも、いざ行ってみると、めちゃくちゃ寂しい。
家族と会えないし、見たこともない文字が並ぶハンガリー語なんて、まったくわかりませんでしたから。
よく、泣いていました。

当初は寮で生活をしていたので、食事は用意してもらえたんですが、これがまた、飯が不味い。
晩飯にタマネギを一個、ボンッとお皿に乗せて出されたこともありました。
しかも、生なんですよ。

"えっこれだけ?"って顔して食堂のおばちゃんを見たら、塩をボンッと置かれて「GO!」ってひと言。ゴーじゃねえよ(笑)。

ただ、ハンガリーはレスリングの環境は最高に整っています。
3人のコーチがついているんですが、その2人が元五輪チャンピオン。
トレーニングパートナーは、ロンドン五輪の銀メダリスト。
最高の環境でみっちり鍛えてもらったおかげで、ハンガリー選手権は8連覇できました。

狙うは、リオ五輪での金メダル。
そのために、ハンガリーにいるわけだし、それが、ぼくができる最高の親孝行だと思っていますんで。

ぼくが、レスリングを出来ているのは、家族のおかげなんです。
うちって、レスリング一家で、おじいちゃんは、山本郁榮といって、ミュンヘン五輪に出場し、優勝候補と目されながらも、審判の汚い判定で負けてしまったレスリング選手。
お母さんは、レスリング世界選手権で3回優勝したレスリング選手です。

だから、いつレスリングを始めたかは覚えてない(笑)。
物心つく前から、お母さんに教えられていたんだと思います。
めちゃくちゃ厳しかったですね。怖くて鬼のようでした。

でも、家に帰ると別人のように優しいんですよ。
逆にこえーよ、何、2つの顔持ってんだよ、みたいな(笑)。

自然と始めたレスリングですが、本気でやろうと思ったのは、小学2年の時の出来事がきっかけでした。

04年、女子レスリングが初めて五輪競技になったアテネ五輪の予選で、お母さんが負けちゃったんですよ。

五輪出場確実ぐらいの期待をかけられていたのに。
試合終了後の記者会見では、たくさんのカメラのフラッシュが焚かれるなか、ボロ泣きしながら謝っていたんです。

"なんで謝る必要があるんだろう"
って思ったその時、体にビーンッと電流が走ったような感じがしたんです。
今でも鮮明に覚えているんですが、この時、決意したんです。

"五輪でお母さんの分も勝たなきゃ"

そこから、ぼくの夢が生まれたんです。
だから家族のためにも絶対に、リオ五輪で金メダルをとります。

その夢をがむしゃらに追いかけて、ハンガリーまで来たわけですけど、そこで、初めてレスリングを辞めようと思ったことがあるんです。

去年の世界選手権のあと、背骨を怪我してしまった。半年間、レスリングができなくて、みんながレスリングをやっている隣で筋トレしかできないんです。
すごい悔しかった。

そのうち、練習もサボるようになり、試合も観に行かなかった。
精神が落ちるところまで落ちていましたね。

"やっていても意味ないし、もう、レスリングなんか辞めちゃえ"
そう、本当に思いましたから。

でも、やっぱり家族を裏切ることはできない。
ある時、ボーっと空を見ながら、"なんでレスリングやっているんだろう"って考えていたんです。

そしたら、お母さん、おじいちゃんの顔が浮かんできた。
やっぱり、2人の無念を晴らすというわけではないけど、2人の喜ぶ顔が見たいなと思ったんです。
そしたら、スーッと辛い気持ちが抜けて、"あっ努力して怪我を治そう"って思えました。

久々にマットに上がった時の気持ち良さったらなかったですよ。
家族のためというのは、もちろんですが、何より、ぼくはレスリングが好きだったんです。
だから、とことん楽しもうって思っています。

そのために、ぼくは対戦相手のビデオを見ないんです。
"うわー、何してくるんだろう"って怖いんですけど、怖いから楽しめるんです。

だから、楽しみながら、リオ五輪で金をとります!
そして、メダルをおじいちゃんの首にかけてあげたい。

撮影/弦巻 勝


山本アーセン やまもとあーせん
1996年9月8日、神奈川県生まれ。GSA所属。母は、3度の世界女王に君臨した山本美憂。祖父はミュンヘン五輪で「疑惑の判定」でグレコローマン57キロ級7位に泣いた山本郁榮。叔父は総合格闘家の“KID”徳郁。叔母は世界選手権を4度制した山本聖子。一族の無念を晴らすべくオリンピックで金メダルを狙う。戦績は、ハンガリー選手権8連覇の他、2013年世界ガデット選手権優勝。2016年リオ五輪でグレコローマンスタイルでの優勝も夢ではない。

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