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貧乏でも小説書きを貫いた 『人間力』 中村文則(作家)

[週刊大衆11月10日号]

貧乏でも小説書きを貫いた 『人間力』 中村文則(作家)

小さい頃は、周りから天才じゃないかって言われるぐらい勉強が出来る子だったんですよ。小学1年生までですが(笑)。ついでに言うと、外見は5歳がピークでしたね……。そこからはなんというか、ずっと劣化してます(笑)。
外見はともかく、学力が、小学1年生がピークというのは、小学2年生から人の話を突然聞けなくなるんです。45分も聞けないんですよ、全然。自習とかは出来るんですけど、人から教わることが無理になるんです。だから、苦痛に耐えるため、授業中ずっと漫画を描いていました。格闘物の大作漫画。別に好きなジャンルというわけでもありませんでしたが。

高校生になると、学校に行けなくなるんです。その……他人がいっぱいいるとこが嫌になって。で、仮病を装って1か月休んで。そこからは、辛くなると「腰が痛い、椅子に座れない」と嘘ついて、教室から逃げました。高校3年間ずっと。僕は腰が痛いと思っていた皆には、申し訳ないことしましたね。
だから、成績はすごい悪かったですよ。進路を決めなくちゃいけない高校3年生の頃、先生に「どこの大学行きたいんだ」って聞かれて、「どこの大学って、まあ、一橋ぐらいだったら行ってもいいです」って答えたら、「馬鹿じゃないか。お前、今の成績だったら大学行けねえよ」って言われて。俺、大学行けないの? と思って。そこで慌てて勉強して、なんとか福島大学に入ったんです。

勿論、大学入っても授業に出るわけじゃないんです。何をやっていたかというと、大学ではバンド。本はずっと読んでいました。それに、自分を把握するために文も書いていました。それが小説みたいになったり、詩みたいになったりしていました。
卒業間近になり、1回ちゃんと小説を書いてみようと思ったんです。書いたらとてもしっくりきました。自分のやりたいことはこれだったという風に。人生は1回しかないので、自分はこれでいこうと思いました。2年間フリーターやりながら、小説書きを中心に据えてやると決めたんです。

で、作家目指して上京するんです。といっても、徒歩1分で埼玉でしたけど(笑)。都会でこもって書く、という何となくのビジョンがありました。
でも、すぐにはうまくいかない。小説を書いて新人賞に応募しても、1次審査すら通らない。今でも覚えているのが、電気もガスも水道も止められたこと。街中を歩いていると、後ろから来た自転車が、チリンチリンって鳴らすんです。ちょっとどいてくださいってだけの意味なんですけど、その音がお前は邪魔だから消えろって聞こえたんです。
その瞬間、物凄く頭に血が上って、あーこいつ、許せないと思ったんですね。その頃の僕は、精神的に追い詰められていました。
でもその瞬間、これはニュースでよくある、腹が立って暴力をふるったっていうのと全く同じじゃないかって気付いて。これはダメだ、生活を変えなければならないと思いました。でもその後、新潮新人賞を受賞してデビューできたんです。

この作品は、それまで書いてきた小説とは全然違うんです。作家デビューしたいとか、現代の文学がどうのとかを考えて書くのは一切止めて、自分の一番書きたいことを書けばいいんだと。自分の原点に戻る決意でできたのがデビュー作の『銃』でした。

僕の小説は全部そうですが、映画になる『最後の命』も、当然自分の内から出てきた書きたいものを書いた作品です。許されない性的な欲望みたいなものと人間はどう向き合っていくのか、を書いた作品なんですが、こういう性犯罪的なテーマを扱うのは勇気がいるんです。批判にさらされることもある。でも誰もがうなずくような平均的な小説に興味はないし、僕が書く必要はない。大切なことを書いたつもりです。

ちょうど、この作品を発表する当時、芥川賞を取ったばかりで、名前が広まった時でした。でも、敢えて次作でこういうことを書くのが僕っぽいなと思って(笑)。そして、この作品が映画化されちゃうんですから、驚きましたよ。絶対に映画にできるわけないと思っていましたけど、脚本を読んだら、作品の本質が見事に描かれていた。
やっぱり、書きたいものというか、自分の中の原点に戻るのが、表現するとき一番いいんです。


撮影/弦巻 勝


中村文則 なかむら・ふみのり

1977年9月2日、愛知県生まれ。福島大学卒業。フリーターとしての生活を2年続け、『銃』で新潮新人賞を受賞し、デビュー。『土の中の子供』で芥川賞受賞。『掏摸<スリ>』、『悪と仮面のルール』の英訳が米紙ウォール・ストリート・ジャーナルで2012、13年と2年連続でベスト10ミステリーに選出された。作家になれなければ、「少年犯罪に興味があったので、法教務官になりつつ小説を書こうと思っていた」と語る。

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