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遊びの『人間力』 沖田修一(映画監督)

[週刊大衆12月01日号]

遊びの『人間力』 沖田修一(映画監督)

「根拠のない自信みたいなものだけはあったし、それをなくさないように大事にしていました」

今回の映画『滝を見にいく』は、自分で言うのもあれですが、正直、あまり劇場でかかる映画のタイプとは違うかもしれません(笑)。7人のおばちゃんが山で迷うって物語なんですけど、役者の半分ぐらいが演技未経験なんですよ。 メインの役どころの人なんて、ロケハンの時に撮影現場の案内をしてくれた妙高市の職員さんですからね(笑)。半分冗談で、「出演者のオーディション受けてみてくださいよ」といったら、本当に応募してきて、気がついたら彼女をメインに映画を撮っていました(笑)。

ほかにも、最後のシーンに登場して、映画を総括する台詞を言うおじさんがいるんですが、彼もただの素人のおじさんなんです。全然、映画の大トリを飾るという自覚がない人がやったら、どうなるんだろうっていう好奇心で、彼に台詞をお願いしました。

映画を撮ることって、僕にとっては一番楽しい遊びくらいの感覚なんですよ。でも、商業映画だと撮るために、莫大なお金がかかるので、そんなことを言っちゃいけないような気がして、普段は口にしていませんが…… 。 たぶん、この感覚は原体験にあるのかもしれません。ぼくが初めて映像を撮ったのは中学生の時だったんです。友達とスキーに行って、雨で滑れない日に、たまたま誰かが持っていたビデオカメラで遊んでいる時、ノリで「映画を撮ろうぜ」ということになったんです。それで『地底人の謎』っていうくだらない映像だったんですけど、みんなでワイワイ言いながら撮ったら、それがすごくおもしろかったんですよ。

それから、家にあったビデオカメラでいろいろな映像を撮って、当時はアナログの時代ですから、ビデオデッキを2台つなげて編集を始めたんです。ものすごく地味な作業で10分の映像をつなぐのも最初は、とても大変で。でも、ダビングのタイミングが掴めると、それもまた凄く楽しくなってハマったんです。そんな体験から映画を観出すと、「どんな作品でも2時間、つながっている!凄いな」と思って。高校生になると、映画ばっかり観ていました。

そのカメラ遊びを、もうちょっと本格的にやってみたいなと日芸(日本大学芸術学部)を受験することにしたんです。でも、監督コースとか脚本コースとかあって、どれも学費が高い。まあ、手に職がついたほうがいいなと思って、撮影コースに入ったんです。でも、学校には、ほとんど行かなかったですね。

25歳までは、ずっと寝てばかりでした(笑)。特にすることもないので、当時、住んでいたアパートの近くの桜の木を、定点でひたすら撮っていました。あとでその映像をつなげると、あっという間に咲いて、あっという間に散る映像が撮れるなと思って。それを毎日のように繰り返していると、「俺、何のために生きてんのかな」って思いましたね(笑)。 当時、焦りはあったと思うんです。でも、根拠のない自信みたいなものだけはあったんですよね。だから、それだけはなくさないように大事にしていました。

卒業後は、結婚式や講演会の割りのいいバイトをしながら食いつなぎつつ、自主映画を撮っていました。そのうちの一つ『鍋と友達』が、水戸短編映像祭で賞をもらって、少し環境が変化していきましたね。次に撮った初めての長編映画がレイトショーにかけてもらえて、その後の商業映画につながったんです。 商業映画って製作費の桁が違って、かなりプレッシャーを感じるんです。でも、そのお金を出してくれた人の意向を意識し過ぎてもしょうがないと思っています。だから、今回の作品のような無茶なことをしちゃいました(笑)。

今後は、違うジャンルの映画も撮っていきたいと思うんですが、結果としては、同じところに落ち着くんじゃないかと。まあ、あんまり深く考えないで、面白そうだなと思うジャンルがあれば、飛びついてやろうと思います。 それで、もし誰からも見向きされなくなったとしても、ビデオカメラさえあれば、映画を撮っていると思いますね。

撮影/弦巻 勝


沖田修一 おきた・しゅういち

1977年、愛知県生まれ。6歳から埼玉県所沢市に引っ越す。日本大学芸術学部映画学科撮影コース卒業。2002年、自主短編映画『鍋と友達』で第7回水戸短編映像祭グランプリを受賞し、注目を集める。その後、『このすばらしきせかい』がレイトショー公開された。「僕は、出演者やスタッフに育てて貰っているんです」と言う謙虚さと才能が認められ、初商業映画の監督として『南極料理人』を手がける。この作品のヒットを皮切りに『キツツキと雨』『横道世之介』を発表し、国内外で映画賞を受賞する。現在、注目の若手監督として活躍中。

遊びの『人間力』 沖田修一(映画監督)

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