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岩井志麻子【歌舞伎町の怪談】 4/4話

2014-12-23

岩井志麻子のあなたの知らない路地裏ホラー

私は歌舞伎町に住んでいるが、近所に住むセクシー系タレント冬美に聞いた怖い話を思い出しながら買い物を済ませて自宅に戻ってくると、ある部屋のドアの前に女がしゃがみこんでいるのを見た。

髪の長い華奢な女性で、強い香水の匂いがした。
こんな寒い季節なのに、胸元と脚がむき出しだった。しゃがみこんでいるが、立てなく なっているのではない。ヒールをはいた足元は、しっかりしている。

痴話喧嘩をしてホストに部屋を追い出されたか、あるいは部屋を訪ねて来たけど留守だ ったか、もしくは居留守を使われて中に入れないか。そんなふうに想像した。

彼女の前を通り過ぎ、買い忘れたものに気づいてエレベーターに引き返し、また外に出て戻ってきたら。今度はエントランス前に女性がいて、さっきと同じ格好でしゃがみこん でいた。

冬美のいっていた、怖い女だったら嫌だな
そう思いながらエレベーターに乗り込んだら、さっきの女がまたしゃがみこんでいた。 さすがに尋常ではないものを感じ取ったが、気づかないふりをした。
そうしたら、今度はうちの玄関先にいた。怖いというより、うんざりした。

完全に無視し、自室に入った。
かすかに、どこからかあんあんという声がした。泣き声というより、あえぎ声だった。

翌日になってドアを開けたら、女はいなくなっていた。ただ、あちこちに香水の残り香が漂っていた。
その後は出て来ない。噂では、昨年、うちではなく隣のマンションで女が自殺したらしい。
イブなのに男が一緒に過ごしてくれないと、飛び降りたそうだ。
相手の男はうちのマンションの住人だったのか。そのあたりは、わからない。

いずれにしても、酔っぱらいも幽霊も適当に無視するのが歌舞伎町の処世術だ。
確か冬美も、同じことをいっていた。


※この物語はフィクションであり、実在の人物とは一切関係ありません。

岩井志麻子(いわい しまこ) プロフィール
1964年12月5日生まれ
A型
高校在学中の1982年、第3回小説ジュニア短編小説新人賞に佳作入選。少女小説家を経て、1999年『ぼっけえ、きょうてえ』が選考委員の絶賛を受けて、日本ホラー小説大賞 を受賞。 半生を赤裸々に語るトークや「エロくて変なオバチャン」を自称する強烈なキャラクターが注目を集める。

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