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写真家・栗林慧「昆虫を撮り続けて40年、いまだに興味は尽きません」~挑戦を続ける人間力

[週刊大衆07月27日号]

写真家・栗林慧「昆虫を撮り続けて40年、いまだに興味は尽きません」~挑戦を続ける人間力

「根気のいる作業でも、好きであれば、そんなの関係ないですよ」

昆虫っていうのは、とても不思議な生き物なんですよ。カマキリのオスなんて、頭を食いちぎられても目の前にいるメスと交尾できるんです。他の動物なら考えられないと思うんですが、そういうふうにプログラムされているんでしょうね。
だから、もう40年以上も昆虫の写真を撮っていますけど、いまだに興味は尽きません。それに、昆虫っていうのは、小さいし、動きまわるし、撮るのが難しい相手で、チャレンジのしがいがあるんです。

そもそも、昆虫の写真を撮ろうと思ったのは、小学校5年生のときに見た映画がきっかけでした。『砂漠は生きている』っていう映画で、生き物がまったくいないような砂漠でも、クローズアップカメラで接写すると、こんなに生き物がいるんだよというのを紹介した作品。

これを見たときに、とても驚きましたね。当時は、クローズアップできるカメラなんてほとんどなかったので、それこそ未知の世界を冒険するような感覚を抱いたんですよ。
それから、カメラに興味を持って、写真を撮り始めたんですが、昆虫をクローズアップしたら、どうやってもブレちゃうんですよ。

どうしても、昆虫を撮ってみたいと思っても、それを撮影できるカメラはない。そこで、自分でカメラを改造したんです。
ピントを合わせて、シャッターを押すのでは、その間に昆虫はどっかにいってしまいます。だから、強力なストロボをつけて、シャッターを押すとピントが調整され、ストロボがつくように改造したんです。いまでこそ、このシステムは市販のカメラに搭載されていますが、当時はそんなものはありませんでしたから。
そうやって、まだ、どこのメーカーも作っていない撮影システムを自分自身でつくっていきました。

一番、感動したのは、昆虫が飛んでいる姿の接写に成功したときですね。昆虫がすばしっこく飛んでいるとすぐにフレームの外に出てしまうし、ピントを合わせるのも難しい。
昆虫が飛んでいる瞬間だけは撮影できなかったんです。これを撮るためには、どうすればいいんだろうって考えて辿り着いたのが、光センサーでした。

僕は、カメラマンになる前は保険会社で車の運転手をしていたんです。
それで、車が駐車場から出るときにブザーが鳴りますよね。あれを思い出して、あの装置をカメラに応用しようと思ったんです。

昆虫が目の前を通った瞬間に、光センサーが反応して、シャッターが下りる仕組みを作ったら、昆虫が飛んでいる姿がしっかりと撮れていた。嬉しかったですよ。昆虫がどんな姿で飛んでいるのかって実は知られていなくて、人間の目で見たら、ただ黒い塊が飛んでいるようにしか見えないでしょう。その写真で初めてわかったんです。

まだ、誰も撮ったことがない写真を撮りたい。その思いで写真を撮り続けてきましたが、4年ぐらい前に昆虫の3D映画を作ろうって話が持ち上がったんです。
ただ、やっぱり3Dのカメラで昆虫を映せるくらいに、接写できるものがないんですよ。どんなに性能のいいカメラでも1メートルが限界。色々と検討しているうちに、ドイツ製の内視鏡カメラが3Dで接写できるとわかったんです。

これを使おうと思ったんですが、もちろん昆虫を撮影するために作られたものではないので、ピントが固定されてしまっていた。昆虫は動きまわるので、これでは撮影できない。
そこで、カメラの下にスライドする特別レールを製作しました。虫の動きに合わせてカメラを動かすんですが、これが難しくて、苦労しました。カメラが出来て1年間以上の期間を撮影に当てて、出来上がったのが映画『アリのままでいたい』です。
普通の人からしたら、昆虫の撮影なんて根気のいる作業に見えるんでしょうけど、好きであれば、そんなの関係ないですよ。

撮影/弦巻 勝


栗林慧 くりばやし・さとし

1939年中国大陸に生まれる。30歳のときに、プロの昆虫カメラマンの道に進みはじめる。02年には、日本写真協会年度賞受賞。06年に、科学写真界のノーベル賞といわれるレナート・ニルソン賞を受賞。同年、紫綬褒章を受章する。常にあらたな撮影装置を開発し、誰も見たことのない写真を撮り続けた昆虫カメラマンの第一人者。今後の目標は、世界の昆虫を3D映像で紹介することだという。

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