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役者・近藤芳正「三谷幸喜さんと出会って“やりたかったこと”に気がついたんです」~演技に育まれた人間力

[週刊大衆03月14日号]

役者・近藤芳正「三谷幸喜さんと出会って“やりたかったこと”に気がついたんです」~演技に育まれた人間力

 今回、出演した映画『ホテルコパン』では、長野県白馬村にある小さなホテルの経営者を演じました。そのホテルに、様々な過去を背負った宿泊客がやってきて、ホテルでの生活を通して、それぞれの過去を乗り越えていくという物語です。僕が演じた経営者は、長野五輪フィーバーで村が賑わっていた時代が、忘れられずに“昔はよかった”と思いながら、生きているんですが、ホテルで宿泊客と関わり合いを持つにつれ……という役柄なんです。

 ただ、僕自身とは正反対ですね。過去を振り返ってもすがりたくなるような思い出はありません。正直、黒歴史ばかりです(笑)。15歳で、両親が離婚して、母親がハワイに行ってしまった。当時のハワイといえば、今でいうブラジルみたいな遠い感覚だったので、二度と会えないんだろうなって思っていました。親父は、ギャンブル中毒で、家には、ほとんどいない。当時の世の中に対する苛立ちは、もうすごかったですよ。義務教育でもないのに、なんで高校に行かなきゃいけないんだと思ってたし、19歳で、一人、東京に飛び出してきたときも、一歩間違えれば犯罪者になっていたかもしれない。渋谷のスクランブル交差点で、銃を乱射してやりたいとか思っていましたから(笑)。

 ただ、その鬱屈した思いを唯一、発散できたのが、芝居をしているときだったんですよ。僕は、人見知りで周囲の人とコミュニケーションをうまく取れなかったんですが、芝居を通じてであれば、周りの人と会話ができた。それに、うまい演技ができれば、大人からほめてもらえる。初めて、自分の居場所を見つけられましたね。それで役者の道に進もうと決意したんです。ただ、役者という仕事に救われましたが、20代の頃は、まったく食えなかったな~。舞台に出てもギャラは0円でしたからね。バイトをしながらの生活で、20代を終わりの頃には、なかなか、芽も出ないし、役者を辞めようって思ったこともありましたね。

 後悔はしたくないから、役者としてやり残したことはやってから、辞めようと考えたんですが、いざ、考えてみたら自分が何をやりたいか、はっきりしていなかったんですよね。そんなときに三谷幸喜さんと出会って、彼が主宰していた『東京サンシャインボーイズ』って劇団の舞台に客演で呼んでもらったんです。そこでのシチュエーションコメディで、マジメな演技で笑いを取るっていうことを知った。“あっ、やりたかったのはこれだ”と気がついて“バイトしながら年に、2、3回こんな舞台ができればいいな”と思うようになって、肩の力がすっと抜けたんです。

 それから、三谷さんが有名になっていったこともあって、僕にも仕事がまわってくるようになった。まあ、30代、40代はいつかまた仕事がなくなるんじゃないかなって不安は、ずっとありましたけどね。でも、その不安は50代になったら消えましたね。撮影の現場で、50代の役者さんをいっぱい見てきましたけど、やっぱり、肩の力が抜けているんですよね。なすがままというか、“できないものはできなくていいや”って、いい意味でのいい加減さがある。だから、僕も早く歳をとりたいなって、ずっと思っていて、50代になって気持ち的に楽になりましたね。

 これまでを振り返ってみると、どちらかというと、善人役を頂くことが多かった。でも、胸のなかには、ドス黒い感情って、やっぱりありますよ。笹野高史さんや、でんでんさんのような善人役をやる先輩役者さんの中にも絶対に黒い部分はあると思うんですよ。むしろそういう人でなければ、善人役は演じられないのかもしれない。そういう意味では、青年時代の鬱屈した気持ちは、役者としての糧になっているのかもしれませんね。役者になって、親、教師、同僚など役を通じてですが、いろんな人とコミュニケーションをとれるのが、一番の楽しみなんです。だから、僕もみんなにとって楽しい気持ちになってもらえるようなアゲチンな役者でいたいですね。

撮影/弦巻 勝


近藤芳正 こんどう・よしまさ
1961年8月13日、愛知県生まれ。15歳で、ドラマ『中学生日記』でデビュー。81年に劇団青年座の研究所に入り、83年に卒業。その後、劇団七曜日、赤信号劇団の公演などに出演。91年に劇団『東京サンシャインボーイズ』に客演として、初参加。以来、三谷幸喜作品に頻繁に出演するように。舞台のみならず、映画『紙の月』や、大河ドラマ『軍師官兵衛』、朝ドラ『おひさま』など多数のヒット作に出演している。

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