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漫画家・土山しげる「食材ではなく“食べる人”を掘り下げた漫画を」~食の表現を追求する人間力

[週刊大衆03月21日号]

漫画家・土山しげる「食材ではなく“食べる人”を掘り下げた漫画を」~食の表現を追求する人間力

 病院食ってマズいって思ったのが、食漫画を描き始めるきっかけでした。漫画家として軌道に乗り始めたとき、過労で倒れ、救急車で運ばれたんです。そして、そのまま入院。そのとき、食べた病院食がマズかったんですよね。で、周りの患者さんもみんなそう思っていたのか、面会室みたいなところでは、みんなご飯の話ばかりだったんですよ。“退院したら、ラーメン食うぞ”とかね。元気になってくると、油ものがほしくなるんでしょうね。

 そのときに、退院したら、ご飯ものを描こうって決めたんです。ただ、それまでの食漫画って、食材や食にまつわるうんちくを描くものしかなかったんです。私自身は、食べることは大好きだけど、三ツ星レストランなんて行ったことがないし、普段、行くのは近所のラーメン屋や、牛丼屋。高いのは、お姉さんがいるお店ぐらい(笑)。

 ただ、食材を描いた漫画はあっても、食べる人を掘り下げた漫画ってなかったんですよね。狙うところはそこしかないって。誰にでもあると思うんですよね。食にまつわる忘れられない思い出って。私が一番、覚えているのは、子どもの頃の話なんですが、運動会の朝、母親が作る巻きずしの端っこ。作っている最中に食べる。このうまさは、強烈に記憶に残っています。

 こういう誰にでもある食の体験って誰も描いてなかったんですよ。それで食漫画を描くようになった。私が描き始めた当時、食事のときの擬音がモグモグしかなかったんですよ。それが、非常に不満でしたね。食べている食材によって、当然違うだろうし、丼物なのか、茶碗のご飯なのかでも違うんですよ。

 絵だって、カレー一つにしても動きますからね。ひと口食べたら、違うし、うどんだって、一本減っただけでもどんぶりの中身は、変わっているでしょう。“1カットをコピーして使いまわしているんでしょ”なんて言われることもありますけど、それは絶対にしない。まあ、こだわってしまうのは、結局、食べ物が好きだからなんでしょうね。

 今でも、おいしい物を求めて、フラっと街中にある初めての居酒屋に入ったりしますよ。初めての店に入るのは、常連さんもいるし、緊張しますね。でも、決して仕事のネタ探しってわけではないんです。だから、料理が出てきても写真を撮ったりは一切しない。むしろ大嫌い。純粋にそのときのお酒と食事を楽しむんです。結果的には、そうしたほうが、あとでポンッと漫画のアイディアにつながるんですよ。

 そんな感じで、漫画家人生を送ってきたんですが、気が付いたら先月66歳になっていました。同窓会に顔を出せば、周りはみんな定年して、携帯の待ち受けは孫の写真。だから、私もいい潮時かなとは、ならないんですよね。仕事がない怖さが頭にこびりついて離れないんですよ。私は、30代になりたての頃に、世は4コマ漫画ブームで、仕事がほとんどなくなってしまった。“多い怖さ”はなんとか頑張ればいいですけど、そのときの“ない怖さ”があるから、仕事がくると、やりますやりますって言っちゃうんですよね。だから、ありがたいことに、今も休みはほとんどない。

 最近は、『孤独のグルメ』の原作者の久住昌之さんと組む仕事があるんですが、『孤独のグルメ』には、谷口ジロー先生のすごい絵が入っているんです。これは負けちゃおれんと、もっともっと描き込まなくちゃってなるんですよね。おかげで、1ページにかかる時間は倍近くになってしまいました。いやー、早々に負けを認めておけばよかった(笑)。

 来週から、『週刊大衆』で始まる連載『東北めし!』は、東北の食をテーマにした漫画です。あまり世に知られていないご当地ならではの名物を描いてみたいなと思っています。せっかく漫画家という仕事をやらせてもらっているんですから、依頼のあるうちは、これからも食漫画を描き続けていきたいですね。それが、なにより自分が好きなことですから。

撮影/弦巻 勝


土山しげる つちやま・しげる
1950年2月22日、石川県生まれ。大学在学中に、漫画『ワイルド7』などで知られる望月三起也氏のもとでアシスタントを経験したのちに、『月刊少年チャンピオン』にて『ダラスの熱い日』でデビュー。95年に、『喧嘩ラーメン』を掲載し、食漫画の道を歩き始める。その後、『食キング』など数々の食漫画を発表。66歳となった現在も多数の連載を抱える売れっ子漫画家。

漫画家・土山しげる「食材ではなく“食べる人”を掘り下げた漫画を」~食の表現を追求する人間力

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