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脳研究者・池谷裕二「“三つ子の魂百まで”は、科学的に正しいのです」~脳の癖を解き明かす人間力

[週刊大衆03月28日号]

脳研究者・池谷裕二「“三つ子の魂百まで”は、科学的に正しいのです」~脳の癖を解き明かす人間力

 黄色ってこの世に存在すると思いますか? 多くの人は黄色と言われたら、どんな色なのか、思い浮かべることができると思います。でも、実は黄色という色は幻覚なんですよ。目の網膜のセンサーには赤、緑、青しかありません。黄色のセンサーはないんです。では、なぜ黄色に見えるのか。これは、簡単に試すことができます。目の真ん中に仕切りを置き、右目に赤、左目に緑を置くと、黄色が見えるのです。赤色と緑色のセンサーが同時に示されると、黄色という本来、存在しないものが見える。つまり、黄色は幻覚なのです。

 何がいいたいかというと、皆さんは黄色の存在を疑ったことがないと思います。しかし、その実体は、実は脳が、そう信じ込んでいるだけ。その脳の信じ込みが、認知バイアスと呼ばれるものです。要は、脳の癖ですね。人は、自分の意思で動いていると感じている方が多いと思いますが、勝手に、脳の中の認知バイアスが、作動していることがほとんどなのです。

 親父を見ていて、あんな人間にはなりたくないなと思っていても、気が付いたら、親父と同じような行動をしているということはありませんか? それで自己嫌悪に陥ることも。認知バイアスは、生まれたばかりの子供には少ないんですよ。だから、ある程度成長するまで、黄色を認識できないのです。目の錯覚を使ったトリックアートも同じに見える。赤ちゃんは、奥行きなんて知らないから。物が小さく見えるには、遠くにあるからというのと、単に物が小さいからという2つのパターンがあるということを、成長の段階で徐々に学んでいくのです。

 つまりは、経験を取り込んでいく。経験によって、こういう時には、こう判断するべきだという基準、つまり「偏見」を身につけていく。言い換えれば、経験とは、選択肢の幅を狭めること。幼少時に持っていた広大なポテンシャルから、特定の可能性を捨てることが、経験なのです。

 実際、赤ちゃんは、ものすごくたくさんの脳神経を持っていますが、3歳くらいまでの間に、持って生まれた脳神経の7割ぐらいを殺してしまいます。生きていくのに、不要な神経は、不良在庫ですから、分解してエネルギーに変えてしまう。その時に残った3割を100歳までずっと使い続けます。「三つ子の魂百まで」という言葉は、科学的にも正しいのです。だから、年を取ると物忘れが多くなるということ自体も、実は認知バイアス。高齢者の方には、記憶力テストをすると伝えると、点数が下がってしまうことが知られています。記憶力テストという主旨を伝えないと、点数は若者と差がないのですよ。つまり、年を取ったから記憶力が衰えたと思い込むことによって、実際に能力が下がってしまうのです。

 たとえば、年を取って、人の名前が覚えられなくなったという方もいます。でも皆さんは、もらった名刺をどうしています? 何度も何度も見返さないでしょう。学生の頃は、英単語を覚えるために、単語帳を作って必死に覚えようと努力しました。それでも、なかなか覚えられなかったわけです。

 それなのに大人は、覚えようと努力もしないまま、脳が衰えたと嘆く。それでは脳がかわいそうですよ。 でも、認知バイアスを止めろというのは、人間を止めろというのと同じで、人間である以上、仕方がないものだし、認知バイアスがあること自体は決して悪いものではない。むしろ、すべきことは認知バイアスというものが、無意識に働いているということを知っておくことです。そうすれば、ああ、これは脳の癖だから、気をつけようと思うことができます。何より、他人の許せない行動についても、それは脳の癖だからしょうがないなと寛容になれます。だから、認知症バイアスという存在を知れば、少しは生きやすい人生になるはずなのです。

撮影/弦巻 勝


池谷裕二 いけがや・ゆうじ
1970年8月16日、静岡県藤枝市生まれ。O型。98年に東京大学・大学院薬学系研究科にて薬学博士号取得。助手、講師、コロンビア大学生物科学講座・客員研究員などを経て、14年に東京大学薬学部教授に。海馬の研究を通じ、脳の健康や老化について探求をつづけ、13年に『日本学士院学術奨励賞』を受賞するなど数々の表彰を受ける。研究者として活躍する一方で『記憶力を強くする』、『進化しすぎた脳』(ともに講談社ブルーバックス)などの著作多数。

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