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ここまで進化した!日本の「がん治療」最前線 vol.1

「私のように心臓に疾患がある患者へのがん治療は、いまだ確立していないんです。それで自分なりに調べて、"陽子線治療"しかないと決めた。そして、ともかく、がんが消えたんです」

今月1日の復帰会見で、こんな喜びの声をあげたのは、作詞家で直木賞作家のなかにし礼氏(74)。なかにし氏は3月に食道がんを告白し、以来、治療に専念していた。

医療ジャーナリストの牧潤二氏が解説する。
「食道がんは、従来の外科療法(手術)では、がん細胞をピンポイント攻撃できないため、進行度によっては声帯も取り、声を失うこともありました。また、手術自体も体力を要し、高齢のなかにしさんには耐えられなかったかもしれません。まさに、最新治療が幸いした典型例といえるでしょう」

日本人の「3人に1人」がいまだに、がんで亡くなっている。ただ、その一方で、次々と新たな治療法が生み出されている。その最前線を覗いてみた――。

代表的な最新治療法のひとつが、なかにし氏が受けた前述の「陽子線治療」だ。最新ゆえ、この治療を受けられるのは、日本国内ではまだ7カ所だけ。保険の対象外なので、治療費は約300万円と高額だ。とはいえ、体力がなくても受けられるので、患者にとっては朗報だろう。

これは「放射線療法」の一種だが、従来のものと、いったい何が違うのか。東京慈恵会医科大学准教授の青木学医師(放射線医学)が解説する。
「放射線療法もこの間、ずいぶん進化し、5年ほど前から、これまでの"3次元原体照射"をさらに進化させたIMRT(強度変調放射線治療)が可能になっています。しかし、それでも限界がありました」

がんの放射線療法とは、単純にいえば「放射線を照射することで、がん細胞を死滅させる」というもの。手術による切除と違い、基本的に臓器や機能を残せる。しかし、がん細胞のすぐ近くに重要な臓器などがある場合、照射が困難だという問題があった。
「昔の"2次元照射"は、位置を固定して、2方向から照射するやり方。これだと、常に同じ位置から照射するため、体の内部のがん細胞に到達する前に、正常な組織にも大量のX線を浴びせてしまいます。しかし、IMRTが登場し"3次元"、すなわち、いろんな方向から立体的に、かつ強弱をつけながら照射することで、1カ所から当てる放射線が少量でも、がん細胞そのものへの照射量を増やせるので、リスクが抑えられるようになったんです」(青木医師)

しかし、それでも脳腫瘍、肝臓や胆嚢のがん、血管、神経が集中している膵臓がんなどへの照射には、限界があったという。
「これに対し、陽子線は一定の深さ以上に進まず、ある深さで最も強いエネルギーを出す性質を持っているので、X線のように体を突き抜けることもなく、がん細胞に到達するまで、正常細胞もほとんどダメージを受けないんです」(前同)

同じく最新の放射線治療に用いる「重粒子線」も、陽子線と同じ性質を持っている。がん細胞へのピンポイント照射が、かなり可能になってきているのだ。

ただし、こうした「粒子線(原子を構成する粒子、X線は電磁波)」を発生させる装置には、巨額のコストがかかる。IMRTの装置でさえ、1台約5億円はするが、陽子線の装置となると1台100億円近い。重粒子線装置に至っては、さらに高額なので、国内でこの治療が受けられるのは現在、3カ所しかない。
そのため、これらの治療法を希望しても、簡単には受けられないのが実情だ。
このように、放射線療法は格段の進歩を遂げ、まだ小さい早期がんの場合などは、従来の外科手術に取って代わってきている。

しかし、「万能」かと思われる放射線療法でも、がん細胞と正常細胞が混在しているような部位に、まさにピンポイント攻撃することは不可能。これが可能になれば、現在、治療が難しいといわれる悪性腫瘍にも効果が期待できる。

実は、まだ臨床試験の段階ながら、この治療法が、京都大学原子炉実験所で行なわれているのだ。「ホウ素中性子補捉療法」といい、がん細胞が増殖する過程で「ホウ素」を取り込みやすい性質を利用し、粒子線の一種「中性子」との核反応で、がん細胞を攻撃するという原理だ。
「中性子はエネルギーが低く、細胞1つだけを破壊する程度。その範囲は0・01ミリと、細胞の大きさとほぼ同じため、隣りに正常な細胞があっても、ダメージを与えないんです」(同)

11月01日公開のvol.2に続く・・・。

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