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風見しんご「天国から娘は、僕に大事なことを教えてくれる」~死と向き合う人間力

[週刊大衆2016年05月23日号]

風見しんご「天国から娘は、僕に大事なことを教えてくれる」~死と向き合う人間力

 長女のえみるが交通事故で亡くなって、9年という月日が流れました。生きていれば、振袖を着て、成人式に出席しているはずでした。なかなか時間の流れだけでは、悲しみは消えません。当初は心にぽっかり開いた穴を塞いで、一歩踏み出そうとしてみましたが、その穴を塞ぐことは容易ではありません。

 でも、小さな出来事を積み重ねていくと、この穴は塞がらないんだと気がついたんです。穴が開いたまま生きていかなければならないんだと開き直ることで、少しだけ心が楽になりました。この悲しみを乗り越えるにはどうすればいいのか思い悩むのではなく、一生、乗り越えることができない悲しみもあるんだと。

 だから、思い出すと辛いと言って逃げないで、どっちみち辛いんだから、家族と長女のことをいっぱい話そうって決めたんです。情けないと思われたって、泣きたいときは泣く、辛い気持ちを認めてあげることで気持ちが楽になったんです。

 そんな事故からの9年間、長女の死と向き合って気持ちを書いたのが『さくらのとんねる』です。その間には、新たな命を授かりました。しかし、何度目かの検診で、羊水検査をしてみると、妻のお腹のなかにいる男の子は、ダウン症だということがわかったんです。

 正直、“1年前に長女がいなくなったばかりなのに、神様は僕にどんな人生を送れっていうんだ”と思いました。でも、夫婦で産むことを決断しました。しかし、妊娠8か月目に、医師から長男の心臓が止まってることが告げられました。結果は残念だったんですが、妻のお腹のなかに長男がやってきてくれた8か月間は、僕ら家族を前向きな気持ちにさせてくれたんです。

 それまでは、過去のことに振り回されていたのに、二女と障害を持った長男は、僕と妻が死んだあと、どう向き合って生きていくのだろうかと、不安な気持ちがあるほど、初めて真剣に将来のことを考え始めたんです。長男は僕たち家族に対して“前を向いてね”という一言だけを伝えるために、お腹の中に宿ってくれたのかもしれません。

 長女の死だって、10年と11か月で終わってしまった娘の人生は何だったんだ!? 世の中に出ていかずに、この世からいなくなって、それで終わりというのは、悲しすぎるじゃないですか。死んでも終わりじゃない。見えなくなったけど、娘は天国から僕たち家族に、あれこれ大事なことを教えてくれるんです。

 娘が生きている時は、娘の前でちゃんとした父親でいればよかったんですが、娘が見えなくなったら、24時間見られていると思うと、悪いことできなくなっちゃった。車の運転中に“なんだよ、おせーな”って渋滞にイライラしちゃうと、“いかんいかん”と思うようになりましたし、本当に小さいことなんですが、公衆トイレを使ったときは、トイレットペーパーを三角に折りたたむようになったり。娘の死というのは、耐えがたい大きな悲しみですが、それを経験してからは、イライラする回数は減って、幸せを感じる回数が増えたんです。

 たとえば、家族が“いってきまーす”と家を出ていったら“ただいま”と帰ってくるのが、当然だと思うじゃないですか。僕自身も当たり前だと信じていましたが、今は、二女や妻が“ただいま”って家に帰ってくると“今日も幸せだな”って感じるようになったんです。なんでもないことが、とてもありがたいことなんだなって、娘に教えてもらったのかもしれません。

 長女と長男の死を経験した今は、二女をしっかりと育て上げるということが、一番の目標です。二女だけは、どうしても守り抜いていかないと。二女が、立派な大人に成長した後の目標は、僕が死んだときに、天国でえみるに会って“よく、がんばって生きました!”って言ってもらうこと。ぼくの人生は、死んだときが終わりじゃないんです。

撮影/弦巻 勝


風見しんご かざみ・しんご
1962年、広島県生まれ。大学進学とともに上京し18歳の時に萩本欽一に才能を見いだされ、芸能界デビュー。ドラマ、バラエティー番組、舞台などでマルチな才能を発揮。83年には「僕、笑っちゃいます」で歌手デビューも果たす。94年に歌手・荒井晶子と結婚し、二女を設けるが、07年に長女を交通事故で亡くす。08年には、長女への愛を綴った「えみるの赤いランドセル」(青志社刊)を出版。現在は交通事故をなくすべく全国で公演活動を行うと同時にタレントとしても活躍中。

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