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映画監督・大島新「自分が撮った映像に値段を付けてほしかった」~肩書を捨てさる人間力

[週刊大衆2016年05月30日号]

映画監督・大島新「自分が撮った映像に値段を付けてほしかった」~肩書を捨てさる人間力

 映像の世界に入ったのは、父・大島渚の影響も多少はあったと思いますよ。でも、大学生の頃までは、映画は遠ざけて、逆に本を読んでいましたね。ノンフィクション作品が好きで、沢木耕太郎さんの『敗れざる者たち』とかが、青春の一冊です。当時は、文章か映像なのか明確に決まっていなかったんですけど、そういったノンフィクション作品を自分なりの解釈で描きたいって思いだけはあったんです。

 結局、『NONFIX』っていう深夜のドキュメンタリー番組が好きだったこともあって、その番組を放送していたフジテレビに入社できて、たまたまドキュメンタリーが作れるセクションに行けたんです。運良く、若いころにドキュメンタリー作品を2本くらい撮ることができたんですけど、段々気が付いてくるんですよ。あくまで僕の個人的な感想ですけど、局員は、思い出作りみたいに1、2本作るんですが、歳をとるにつれ、現場を離れ、実際は外部の制作会社が作っているんです。

 僕がいた情報ドキュメントセクションは、ワイドショーのプロデューサーになるのが出世コースで、キャスティングとか大きな采配をしますけど、自分自身がカメラの横にいて、取材できるわけではない。僕は、ちゃんと映像作品を撮れる人になりたかったんですよね。大島渚の息子だし、フジテレビの局員って二重で下駄を履いている感じじゃないですか。実際、自分の値段というか、自分が撮った映像が一本いくらになるか値段を付けてほしかったんです。

 そんな思いがあったので、30歳になるちょっと前に会社を辞めたんです。当時は、平均給与が日本で一番高いといっても言い過ぎではないような会社でしたから、これ以上、給料が上がっておいしい思いをする前に辞めておかなきゃって。でも、辞表を出した翌日に妻の妊娠が発覚したんですよ。もし、前日にわかっていたら、決意が揺らいでいたかもしれない。その順番だったから、辞めるという決断は間違っていなかったなと。

 今は、強がりでもなんでもなく本当に辞めてよかったなと思いますね。フジテレビの同期は50人くらいいたんですけど、辞めたのは、男では僕だけ。彼らとたまに集まったりしますけど、実際に映像作品を撮っているのは、僕が一番多いですし、おもしろい人生だなと感じますよ。もちろん、フリーになって、会社を立ち上げてから、浮き沈みはありましたよ。ドキュメンタリーって時間とお金はかかるけど、映画でいえば観客動員、テレビでいえば視聴率はあまり取れませんから。

 07年に、唐十郎さんに密着した映画『シアトリカル 唐十郎と劇団唐組の記録』を撮ったときが一番、危なかった(笑)。僕が、その仕事に時間をかけすぎて、他の仕事が全然できなかったんです。だから、今回、園子温監督のドキュメンタリー映画『園子温という生きもの』を撮ったんですけど、「また、映画やるの? 回収できるの?」って妻から睨まれました(笑)。彼女は、会社の経理でもあるので。でも、やっぱり自分の好きなことはやっていきたいですよね。園子温監督のドキュメンタリーを撮って、それを改めて実感しました。

 彼は、40代の後半で年収200万円以下の時もあったのに、それでもあきらめずに自分自身のオリジナルな表現をずっと続けてきているんです。引っ張りだこの状態になった今でも、そこに安住せずに新しいことをやろうとしている。誰も真似できないと思うし、物を表現する人間として、本当に頭が下がります。今後も、今作のようなドキュメンタリー映画を作っていきたいなと思いますし、やっぱり、自分が見たい物を作っていきたい。自分で、自分が撮った作品を1カ月ぶりとかに見て、笑っていますから。バカみたいですけどね(笑)。

撮影/弦巻 勝


大島新 おおしま・あらた
1969年、大島渚監督の次男として生まれる。95年、早稲田大学第一文学部卒業後、フジテレビ入社。『NONFIX』『ザ・ノンフィクション』などドキュメンタリー番組のディレクターを務める。99年フジテレビを退社し、フリーに。『情熱大陸』(毎日放送)で寺島しのぶ、秋元康、見城徹、園子温などを演出。07年に監督した映画『シアトリカル 唐十郎と劇団唐組の記録』で第17回日本映画批評家大賞ドキュメンタリー作品賞を受賞

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