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映画監督・冨永昌敬「映画学科卒ですが、本当に独学なんですよ」~自力で学ぶ人間力

[週刊大衆2016年06月06日号]

映画監督・冨永昌敬「映画学科卒ですが、本当に独学なんですよ」~自力で学ぶ人間力

 今でこそ、東京に住みながら映画監督としてやっていますけど、生まれは愛媛の田舎町。山奥過ぎて、民放のテレビは2局しか映らなかった。でも、もっと山奥にある限界集落みたいなところは、逆に標高が高いから、大分や、広島の電波が入ってチャンネルが多く映るんです(笑)。そんな田舎暮らしだから、映画を見るのは、一大イベント。映画館に行くには、車で1時間かけて松山まで出なければならないわけですからね。両親の買い物にくっついて行って香港映画を年に数回見るのが、楽しみでしたね。

 だから、WOWOWが開局したときは、もうとんでもない衝撃でした。近所に住んでいる従兄弟が映画好きで、WOWOWにすぐさま加入したんです。従兄弟は、120分のVHSテープを3倍モードにして、すごく画質の悪い映画をどんどん録画していきました。Vシネマのあとに、かなり難解なテーマを扱ったベルイマン(スウェーデンの映画監督)の作品があったりと、ものすごい組み合わせの映画の3本立てが、コレクションされていく。僕はそれを借りて、ひたすら映画を観ていました。

 映画は好きだったんですが、将来、映画監督になりたいと明確なイメージがあったわけではなかったんです。ただ、両親は、スナックをやりながら、四国お遍路の宿もやっていたんです。「同行二人」(※弘法大師と二人で歩くという意味)と書かれた白装束の人がご飯を食べていて、隣のテーブルでは担任の先生が酒を飲みながら、週刊誌を読んでいる。僕の家には常に他人がいて、仕事と暮らしの区別があいまいでした。その両親を見て育ったわけですから、僕自身が会社に入って、勤め人になるってことは、まったくイメージできなかったんです。

 それで、高校を卒業した後、日本大学芸術学部の映画学科に進学したんです。ただ、大学では映画作りの心得みたいなことは何も教えてくれませんでしたね(笑)。僕は監督コースに入ったんですが、卒業制作のときに、他のコースは色々な準備があるんですけど、監督は何もないんです。だから、他のコースの友人たちの準備を手伝っていると、先生がきて「お前ら何してんの? 監督なんだから屋上でビールでも飲んでればいいんだよ」って。せめて、ビールぐらい買ってきてくれって思いましたよ(笑)。

 大学在学中から、四谷の老舗ジャズ喫茶「いーぐる」で12年ほどバイトしていました。ここは映画好きが多くてすごく居心地が良かった。先輩やオーナーと映画の話をしたり、一緒に映画館へ出かけたりするうちに影響を受けました。バイト中はお酒とおつまみを作りながら、映画の台本をずっと考えていたものです。正直、日芸の映画学科卒と言ったら、映画をしっかりと勉強して監督になったんだなと思われがちなんですが、本当に独学なんですよ。むしろジャズ喫茶で働いた経験のほうが、今の仕事に活きている気がします。

 レコードを選ぶときは、起承転結を意識しろとオーナーから教わりました。客の様子や店の雰囲気を見ながら次の一枚を考えるんです。これは映画の構成づくりに役立っています。連続ドラマ『ディアスポリス 異邦警察』(TBS系)は、東京に不法滞在外国人による裏社会が存在して、そこの治安を守るいわば裏警察官の活躍を描いた作品で、同名漫画が原作。正直、原作を読んだときは、このハードな内容をどうやって映像化するんだ、と心配したんですが、いざ完成したら、自分が書いた物語みたいに思えた。

 それは僕も含めて、茂木克仁、真利子哲也、熊切和嘉という4監督と、主演の松田翔太が、原作漫画の面白さを、現在の東京にリアルに起こりうる物語としてアップグレードしたからだと思います。だから、誰が書いたどんな物語だろうと関係ない。面白ければ、僕らのほうが同化できる。この仕事はそんなこともできるから楽しいんです。

撮影/弦巻 勝


冨永昌敬 とみなが・まさのり
1975年、愛媛県内子町生まれ。日本大学芸術学部映画学科卒業。おもな監督作品は『亀虫』『パビリオン山椒魚』『パンドラの匣』『乱暴と待機』『目を閉じてギラギラ』『ローリング』など。ドキュメンタリー映画『マンガをはみだした男 赤塚不二夫』が現在公開中。

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