日刊大衆TOP 社会

3.11東日本大震災から2年「その後の被災地酒蔵」 vol.1

[週刊大衆3月25日号]

3・11「東日本大震災」から2年が経った。いまだに被災地では、わが家を失い、職を失った人々が仮設住宅などで眠れぬ夜を過ごしていると聞く。

震災から3カ月後。小誌連載『酔人伝』でお馴染みのライター・大竹聡氏とともに、本誌は被災地の酒蔵を訪ねた。被災した酒蔵の現状、そして、今後について――。それを自分たちの目で見て、蔵元さんたちの話を直に聞くためだ。

なぜなら、酒蔵とは、地元の名士であり、わが町の酒とは、地場の人にとって誇るべきものだからだ。酒蔵を通して、被災地の復興を追う、それが目的だった。

そして、その取材から1年8カ月。本誌は再び、冬の東北へと足を向けた。

前回と同様、津波により蔵を流され、原発によって故郷に住めなくなった鈴木酒造店の鈴木大介氏。

同じく、津波で蔵が全壊、大事な従業員の命も奪われた酔仙酒造の金野靖彦氏。

そして、東北を代表する商業都市・石巻で津波の被害と闘いつつ、町の復興に尽力する墨廼江酒造の澤口康紀氏から"2年後の現状"を取材するために……。

**東北を大雪と大寒波が襲った今年2月下旬。先の大震災で甚大な被害を受けた3軒の酒蔵を再訪した。

前回の訪問は、震災後3カ月半ほど経過した11年6月のことで、被災地の人々は復興の緒についたばかりだったが、現在、どこまで回復しているのだろうか。

最初に訪ねたのは、山形県長井市だ。
奥羽本線の赤湯駅から山形鉄道フラワー長井線で約45分。長井駅で降りると、プラットホーム上の駅名看板の脚の部分が雪に埋まっていた。とても寒い。
この雪深い土地に、福島県浪江町で「日本一、海に近い酒蔵」といわれた鈴木酒造店が蔵を構えている。

あの日――。酒蔵も創業家の居宅も、すべて波に飲まれた。加えて原発から7キロと近いために強制的に避難を強いられる。
しかし、一切を失った失意のどん底から、専務の鈴木大介さんが立ち上がる。

南会津にある国権酒造の設備や人手を借りて酒造りを再開するや、県の技術支援センターに残っていた浪江の蔵の山廃酒母から酵母を選抜して、モロミを造ることに成功。
つまり、"浪江の酒"を残すという離れ業をやってのけたのである。震災から4カ月。銘酒『磐城壽』の復活は、まさに奇跡だった。

あれから1年半。雪深く、水も異なる土地での酒造りは順調だろうか。
一抹の不安が胸をよぎったが、蔵の扉を開けると、鈴木さんはとびきりの笑顔で迎えてくれた
「1年300日稼働で、生産量は500石。これは浪江のときと同じ量です。売り切れる範囲内で酒質も安定させるには、これくらいの量がいいかと。第一、ウチの製造は、私と弟と、もう一人の3人でやっていますから、たくさん造る体力は、そもそもないんですよ」

鈴木さんはそういってまた笑う。いま、酒を造れるということが、何より嬉しいのだと顔に書いてある。

当初、鈴木さんは福島県内での再建を願った。が、貸し工場では5年程度でまた退去しなくてはならず、一方で新規に酒造免許を取って建屋・諸設備を整備するとなると、最低で1年半かかることもわかった。
そこで山形への移転を決意する。ここは東洋酒造という会社の蔵だが、鈴木酒造店は東洋酒造の全株式を取得して買い取ったのだ。

現在、震災後2季目の酒造りを行なっている。

「これは、3年くらい熟成させようと思っています」
鈴木さんが指差す仕込みタンクの中では、浪江の蔵付き酵母を用いた純米酒が発酵を続けていた。口ぶりから推して自信作だろう。完成が待ち遠しい。

鈴木さんの酒造りに対する思いは最近になって、より深くなったという。
「震災を経験して、酒には力があるんだなと、改めて感じさせられました」

人と人とが繫がり、喜びや悲しみを分かち合う場にこそ、酒がある。鈴木さんは、それを震災後の苦しみのさなかで再認識した。

そして、今年1月、浪江町の成人式で鈴木さんは酒を配った。
「今年の新成人は高校3年の春に被災して、ちゃんとお別れもできないままバラバラになった子たちなんですね。成人式の当日、私は早めに出て開式の2時間も前に着いてしまったんですが、もう新成人がたくさんいた。みんな会いたかったんでしょう。涙が出ました。そして、酒を配るときには、これを誰かお世話になった人と飲んでねと、ひと声添えました」

人と人の心を繫ぎ、支え合う場。酒造りを通じて、そういう場を作ることが自分たちの今後の課題だと、鈴木さんはいい切った。

3月23日公開のvol.2に続く・・・。

この記事が気に入ったら
をしよう

いいね!

@taishujpさんをフォロー

大衆のオススメ


オススメタグ


人気記事ベスト10


日刊大衆公式チャンネル


Copyright(C) 日刊大衆 Futabasha Publishers Ltd. All rights Reserved.