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伝説のCIA工作員激白プロの目から見た「アルジェリア人質事件」 vol.2

[週刊大衆2月25日号]

《最悪に備えよ》
これは普通に暮らしている我々もそうだが、メンデス氏がCIAから学んだことも、端的には、このシンプルな法則だったという。
「いま置かれている状況で最悪の状況を想定せよ、ということだ。危険な地域で最悪といえば撃たれて死ぬことだが、"その次の最悪"といっておこう。たとえば、自分が拉致されて箱に入れられ、外から釘を打たれて閉じ込められたら、どうするか。アルジェリアのような危険な地域に行く場合は、そういうことを真剣に考えることも重要だ。一度、そういう最悪の状況を考え、そこから脱する方法をあれこれ考えると、恐怖を軽減することができて冷静になれる。もしナーバスになれば、それは何かが欠けているからだ。その何かを追求し、解決しておくことが必要である」

もうひとつ重要なことは「fallback position」(最悪の場合の代案)も、同時に考えておくことだという。
「最悪の状況に追い込まれたときに案が一つしかないと、それがうまくいかなかった場合、パニックに陥るため、必ず代案を用意しておかねばならない」

その際の代案は「自分で正しいと思った方法」が望ましいという。
「我々はCIAの本部に対して、"特別な指示が来ない限り、このやり方でやる"と報告する義務があるのだが、それにはちょっとした秘密がある。実は"すでに実行したことを、あたかもこれからやるかのように報告する"のが常だった。"fait accompli"(既成事実)を作ることは非常に重要だ。現場にいる人が最も状況を把握しているからだ。本部の指示より、現場にいる自分の内なる声を信じたほうがいい。これから行なう計画に対して本部から許可をもらうよりも、既成事実に対して許しを乞うほうが、はるかに簡単だ」

アルジェリアの人質事件で、トラックの下に逃げて助かった日本人がいたが、そのとっさの判断は正しかった。それは偶然だったかもしれないが、日頃から最悪の状況への備えを考えていると、いざというときに行動に出るものだ。
「アルジェリアに派遣された日本人が渡航前に、どれだけ危険地域で働くための訓練を受けたのかは知らないが、もし派遣した企業側が十分な指導や訓練を施していなかったとしたら、その責任は大きい。ちなみに私はNYを拠点に取材をしていた当時、現役のFBI捜査員と一緒に、厳しい射撃訓練を受けている。止むを得ず危険な地域に取材に行かねばならない場合、役に立つかもしれないと思っていた」

危機管理意識は、一朝一夕で身につくものではない。日頃から、その意識を高めておくことこそが、生死の分かれ目になるのだろう。

トニー・メンデス
1940年生まれ。長年、CIA偽装工作のスペシャリストとして活躍。79年の米大使館占拠事件で「アルゴ作戦」を立案、遂行。スター勲章を受章する。同作戦は『アルゴ』の名で映画化され、今年度アカデミー賞の有力候補に。四半世紀にわたるキャリアで数々の栄誉に輝く。CIAの設立50
周年記念に50人の卓越した局員に授与された「トレイルブレイザー」(先駆者という意味)賞の受賞者。著書に『The Masterof Disguise』や『Spy Dust』(妻との共著)がある。

聞き手/国際ジャーナリスト
大野和基(おおの・かずもと)
1955年生まれ。東京外国語大学英米学科卒業。79~97年在米。コーネル大学、ニューヨーク医科大学に留学。国際情勢の裏側、医療問題から経済まで幅広い分野をカバーし、テレビ出演も多数。近著に『マイケル・ジャクソン死の真相』(双葉社)がある。

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