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震災、共同生活、旅立ち「女川町保福寺 泣き虫和尚 奇跡の2年間奮闘記」 vol.1

[週刊大衆3月18日号]

東日本大震災から2年、テレビでは"復興"という言葉が強調され、被災地にも普段の生活が戻りつつあるように見えるが、いまだ、うず高く積まれたガレキの山が残る地域は多い。
宮城県女川町にある尾浦もそんな場所の一つだ。ここは小さな浜の周辺に広がる集落で、ギンザケの養殖が盛んなことで知られる。
約200人が生活をしていたこの集落では、震災で19人の死者・行方不明者が出た。津波のあと、小さな漁村に残ったのは1軒の民家と、お寺だけだった。
その寺、曹洞宗護天山保福寺で住職を務めているのが、八巻英成氏(31)だ。
同氏は、人の温かさや震災による被害者たちのことを思うと、涙をこらえられなくなることから、地域住民に"泣き虫和尚"という愛称で親しまれている。
家を流された人々は避難所に指定されていた寺に集まり、そこで他地域からの避難者も含めて約200人の共同生活が始まる。
そんな彼らが歩んだ震災後の2年間を紹介したい。

※「震災当初が一番きつかったですね」

開口一番、八巻住職は、こう振り返る。そして、遠くを見るような目で、次のように続けてくれた。
「避難所に指定されていた私のお寺には赤ちゃんもいたんですが、この異常事態に神経質になっていたのか、夜泣きがすごくて……それに腹を立てた人が"うるせえ"なんて怒鳴ったりなんてこともありました。また、食糧は多少の蓄えしかありませんでしたから、ガレキが散乱する浜から、流された冷蔵庫の中にある食べ物や、水揚げされている牡蠣を拾ってきて凌いでいました」

家を流され、身内を亡くした人もいる――未曾有の事態は、顔馴染みばかりで気心が知れている小さい集落の人々の間にも亀裂を生んでしまったのだ。
「それでも、それは最初だけで、大きなトラブルもなく、少し経てば、みんなが協力して困難を乗り切ろうとしていましたね」(八巻住職=以下同)

雪で冷蔵庫を作る。ガレキの中から台所のシンクを拾ってきて、みんなで使う台所を作るなど、工夫をすることで、不便な避難所暮らしを少しでも快適にしようとしていたという。
「尾浦の人々は小さな集落に住まう"大家族"なんです。それを震災直後の混乱期に痛感させられました」

実は八巻住職は尾浦の出身者ではない。もともと、女川から少し南に下った宮城県石巻市の出身だ。父が石巻市桃浦地区にある曹洞宗三国山洞仙寺の住職をしていた。次男だった八巻住職は、寺を継がず、都内の工業大学に通い、卒業後はエンジニアになろうとしていた。そんな彼に転機が訪れたのが、大学3年生のときだったという。
「いまの保福寺の先々代が亡くなり、私の祖父が跡を継ぐことになったんです。しかし、祖父は当時、すでに80歳の高齢。長く続けていくことが難しいという事情もあって、私に白羽の矢が立ったんです」

最初は断わろうとしたという八巻住職。しかし、祖父に頭を下げられたことで決意を固める。
「二十歳そこそこの若造に80歳の祖父が頭を下げたわけですからね。大学を卒業後、1年半の修行を積み、24歳でお寺を継ぐことになったんです」

前述したように、尾浦は人口200人ほどの小さな集落。そこに、町のことを何も知らないまま、足を踏み入れたのだ。
「一人も知り合いがいませんから、わからないことだらけ。でも、とにかく顔を覚えてもらおうと、町を歩き続けました。まあ、最初は"あんた誰だ?"なんていわれましたけどね(笑)」

この情に厚く、人懐っこい住職を尾浦の人々が受け入れるのに、そう時間はかからなかった。
「町を歩いているうちに"うちでご飯食ってけ"って呼ばれて、お酒を飲ませてもらったり。そうすると、その噂が広まって、今度は"あそこん家で飯食ったなら、うちにもこい"って、いろんな方に声をかけてもらえるようになりました」

よそ者を温かく迎え入れてくれた尾浦の人々。八巻住職は次第に、集落に溶け込んでいった。そして、住職になって4年後……大震災が町を襲ったのだ。
「当日は、お寺で塔婆を書いていたんです。"地震だな"と思ったら、その瞬間、尋常ではない揺れがやってきて、"とにかく外に出ろ"と妻と子供たちとすぐに避難しました」

揺れが収まり、海を見に行くと、普段なら水深3~4メートルはある海底が見え隠れしていたという。
急いで高台にある寺に戻った。そして、ふと海のほうを振り返ると、真っ黒な壁のようなものが、建物や漁船などを巻き込みながら、どんどん高台のほうへ迫ってきたという。
その後、難を逃れ、高台にある寺に家を流された人々が次々と集まり、避難生活が始まったわけだ。
「震災当初は、みんな辛くても涙を見せなかった。僕でさえ人前では泣かないと決めていました。でも、震災から10日後、救援物資が届いたとき、自然と涙がこぼれてきたんです」

想像を絶する日々に少しの希望が見えたことで、人々の間にわずかな余裕が生まれたわけだ。

3月12日公開のvol.2に続く・・・。

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