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“初心”を思い出した講師の仕事

「自分にも、こんな時代があったんだよなぁ」。
 地方競馬教養センターから講師の依頼をいただき、僕でお役に立てるならばと快諾。ひと言ひと言に目を輝かすイガグリ頭の生徒たちを見て、思わずそんな言葉をつぶやいていました。
 中央競馬は競馬学校。地方競馬は教養センター。呼び名は違いますが、騎手になることを夢見て、3年間、ストイックな生活を送っているのは同じです。
 

 朝は5時半に起床。
「そんなに早いの?」
 という声が聞こえてきそうですが、驚くのはまだ早い。夏はさらに1時間繰り上がって、4時半です。
 眠い目をこすりながら、パンツ一丁で食堂に集合。毎朝の一大イベント、検量があります。
「検量……?」
 体重測定と言ったほうがわかりやすいと思いますが、騎手の世界では、体重は測るのではなく、検査するもの。競馬学校では、それぞれの生年月日によってひとりひとり指定体重が定められ、3日続けて超過すれば退学……という厳しいルールが待ち受けていますから生徒たちも必死です。
 さすがに現在は、寮監に申請すれば、ロッカーにおやつを持ち込むことが許されているようですが、僕らのときは完全NG。
「腹減ったなぁ」
 いつも、誰かがつぶやいていて、気がつくと同期の全員が、お腹に手を当てていました(笑)。
 月に3日ほど許されていた休日も、地図とにらめっこしながら、
「ここからバスに乗って地下鉄に乗り換えたら20円安いぜ」
 とか、
「あそこのケーキは安くて量が多い」
 とか、そんな会話ばかり。

 冗談にも高級とは言えないケーキを一口ほおばり、「おいしいなぁ」と、うっとりできたのは、若者の特権のようなものです。
 1分でも遅れると、次の休みが外出禁止にされてしまうから、帰り道はいつもダッシュ。
「やばい、あと3分しかない!」
 息を切らしながらマサヨシ(蝦名正義騎手)と並んで走っていたのを思い出します。
 そうそう、ウソかホントかわかりませんが、腹を減らした生徒が、夜中、厩舎に忍び込み、馬の飼料のニンジンを盗み食いして教官に捕まった……という笑えない伝説が残っています。
 あんな生活は二度とできません。でも、あの3年間があってよかった  。
 当時は、苦しいだけの毎日でしたが、いま思い返すと、心からそう思えます。
 初心忘るべからず。
 わずか数時間でしたが、生徒たちに、プロフェッショナルになることの心構えと覚悟を問いながら、僕は僕で、自分の原点を思い返すことができた、貴重な時間でもありました。
 競馬学校については、過酷、過酷、また過酷のスケジュールや、まさかだったお茶や美術の授業など、まだまだ、伝えたいことがたくさんありますが、それはまたの機会に。


厳しかったけどいい思い出です

“初心”を思い出した講師の仕事

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