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実娘告白 零戦パイロット坂井三郎氏の素顔「家族と空を愛した撃墜王」 vol.02

[週刊大衆12月23日号]

そんな度量の広い坂井さんが、道子さんに本気で怒ったことがあったという。

道子さんが軽い気持ちで、「あー死にたい」と呟いたときのこと。
坂井さんはテーブルの上に裁ちバサミを"バン!"と置いて、「そんなに死にたいなら、いますぐここで死んでみろ!」と言ったという。

呆然とする道子さんに、「ひと思いに喉を突けば死ねる。だが痛いぞ!思ってもいないのに死にたいなどと口にするな!」と続ける三郎さんの顔は、真剣そのものだった。
「戦争で多くの友の死を間近に見た父だからこそ、死を軽々しく扱う発言は許せなかったのだと思います」と道子さんは語る。

道子さんは、78年からアメリカに留学。
向こうで見たのは、アメリカの片田舎の書店で売られている坂井さんの著書の英語版『SAMURAI!』だった。
敵国だったアメリカでも父の生き方が受け入れられていることを肌で感じ、道子さんは徐々に父親のことを客観的に理解できるようになり、そして、父"坂井三郎"を真に誇りに感じるようになったという。

道子さんが、アメリカ人の軍人と結婚したい、と打ち明けたのは、6年間過ごしたテキサス州の大学の卒業間近のことだった。
そのとき、坂井さんは「そういうこともあるだろうと思っていた」と、その話をすんなりと受け入れたという。
「反対しないの?」と訊くと、「じゃあ、俺が反対したらやめるのか」と淡々と答えたという。

その後、道子さんは坂井さんのアメリカ各地の講演旅行で通訳を担当。
父親の死後もなお、その生きた姿を伝え続けている。

道子さんは、坂井さんのこんな言葉が忘れられないという。
「"戦争を知らない方たちは、その悲惨さだけを思い、戦時中に生きた者には喜びがなかったように想像されるかもしれないが、もちろん直面の状況にもよるとはいえ、激戦地にあっても俺たちはよく笑った。人間は明日死ぬかもしれないからこそ、いま笑うんだ"と話していましたね」

現在、道子さんの息子は海兵隊員としてアメリカ軍に所属している。
「息子は父から"幸せはその人の受け止め方次第だ"ということを教えてもらったと、よく話しています。怖いときもあったけど、いまはおじいちゃんの笑っている顔しか思い出せない、と言っていますね。アメリカと日本、遠く離れていて、会う機会も多くなかった祖父と孫ですが、そうやって坂井三郎の魂が受け継がれていることを、嬉しく思っています」

道子さんはたまに、坂井さんのこんな姿が瞼(まぶた)の奥に浮かぶという。
「父は、羽が傷ついて飛べなくなった蝶を、2週間もかけて一生懸命に介抱していたことがあるんです。自力では飛べない蝶を、そっとつまんで自分の指につかまらせ、空を飛ぶように動かしていた父は、その蝶に自らを重ね合わせていたのかもしれません。空を飛ぶことが何よりも好きで、飛行機とともに青春を過ごした父ですからね」

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