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【武豊】敢えて男馬に併せる作戦を選択

 今日は、僕がこれまでに出逢ったなかで、とびきり素敵な女性について話をしましょう。
 
 彼女の名前は……
 

エアグルーヴ。

凱旋門賞を制したトニービンを父に、オークス馬のダイナカールを母に持つ、とてもかわいい顔をした仔でした。育ての親は、いまも尊敬してやまない伊藤雄二・元調教師です。
 初めて彼女を間近に見たとき、その素質の高さ以上に、「なんて、キレイな立ち姿なんだろう」と、しばし、見惚れていたことを思い出します。
 調教で跨った感じでは、フットワークも力強く、勝負根性もありそうで、同世代の牝馬のなかでは一番になるかもしれない……そんな期待を抱かせてくれるお転婆で気の強い仔でした。
 ただ、さすがに、GⅠのタイトルを2つ(96年オークス、97年秋の天皇賞)も取り、年度代表馬に選ばれるほどの名馬に成長するとは想像もしませんでした。
 まして、伊藤雄二先生の、「これで男のシンボルがついていれば、ダービーは確実だ」という言葉をそのまま受け止めてはいませんでした。
 僕がエアグルーヴの魅力に惑わされたのか、それとも、まだまだ、女性を見極める眼が備わっていなかったのか、そこは微妙なところですが(笑)。
 入厩当時、厩務員さんを振り落とすほどのお転婆ぶりを見せた彼女は、スタッフの期待に応えるかのように、精神的にも肉体的にも一戦ごとに成長し、乗っている僕がちょっと驚くほどいい女へと変貌していきました。

【 牝馬GⅠではなく天皇賞に参戦した 】

 普段は、まるっきり女の子なのに、いざとなると男がビビるほど無類の強さを見せつける。馬場入りのときはエキサイトしているのに、レースになると落ち着いている。
 女は怖い  。
 そんな言葉がよく似合う素敵な女性でした。
 こうして彼女を語るとき、忘れられないのが、牝馬としては17年ぶりの栄冠となった97年に行なわれたGⅠ「天皇賞・秋」です。
 本来ならば、牝馬同士で覇を競う、前年度から古馬も参戦可能になったGⅠ「エリザベス女王杯」に出走するのが一般的なローテーション。
 しかし、陣営は躊躇なく、前年の覇者、バブルガムフェローを筆頭に、歴戦の牡馬がぶつかり合うレースを選択しました。
 最後の直線、敢えてバブルガムフェローに馬体を併せ、力と力の真っ向勝負に持ち込んだのも、彼女だからできたことです。
 そんな僕の気持ちが伝わったのでしょう。まるで、ゴールがそこにあるのがわかっているかのように、最後の数メートルでグイッと首を突き出し、競走馬にとって最高の名誉である年度代表馬の座を、自らの力で射止めました。
 牡馬相手に、常に王道の競馬で立ち向かい、ファンの期待に応え続けたエアグルーヴは、名牝というよりは名馬。彼女が築き上げた数々の栄光は、その名前とともに、いまも決して色褪せることはありません。

【武豊】敢えて男馬に併せる作戦を選択

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