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野村克也×二宮清純対談「マー君の穴は則本が埋める」

[週刊大衆04月14日号]

二宮 昨季は野村が4年かけて土台づくりを行った東北楽天が球団創設9年目で初のリーグ優勝、日本一に輝きました。
しかし、24勝0敗という信じられない成績で、MVP、沢村賞、最多勝などに輝いたエースの田中将大がポスティングシステムを利用してヤンキースに移籍。野村の時代でいえば、南海の杉浦忠さんや、西鉄の稲尾和久さんがいなくなったようなものです。

野村 確かにマー君の抜けた穴は大きい。しかし楽天には彼に代わるエースがいる。昨季の新人王・則本昴大(のりもとたかひろ)ですよ。彼がいるから今季も大丈夫でしょう。

二宮 辛口の野村さんが、これほど褒めるのは珍しい。昨季は新人ながら15勝(8敗)をあげました。則本の最大の長所は?

野村 彼は非常に原点能力の高いピッチャーですね。

二宮 原点能力とは?

野村 カウント1-0、2-0、3-0という、ピッチャーにすれば困った場面で、外角低めにズバッとストライクがとれる能力。ストレートでも変化球でもいいんです。この能力が高いピッチャーだとみています。

二宮 これほどのピッチャーがドラフト1位ではなかったことが、今となってはむしろ驚きです。

野村 日本シリーズではマー君よりも則本のほうがよかったんじゃないかな。とりわけコントロールのよさには驚きました。
キャッチャーの立場で言わせてもらえば、配球の原則には1.ピッチャー中心、2.バッター中心、3.状況中心と3つある。キャッチャーはこの3つを組み合わせながら配球を考えるんです。
たとえば、1死一塁だとしましょう。
キャッチャーはまずゲッツーをとりたいと考える。バッターだって、それはわかっているわけだから、こっちが要求しているところにきっちり投げてくれないと、そう簡単には引っかかってくれませんよ。その意味ではコントロールのいい則本は非常にリードのしがいがあるピッチャーだと思いますね。

二宮 昨季はこのルーキーをキャッチャーの嶋基宏がうまくリードしていました。野村さんから見れば、まだまだかもしれませんが、かなり成長したのでは?

野村 以前にも言いましたが、彼の一番の欠点は怖がりなところでした。自分がブツけられるのが嫌で、相手に対して厳しく内角を突けない時があった。
だから僕は彼によく言ったものです。「バッターの目の前をボールが通過した時、必ず相手は何らかの反応をする。それを見逃すな!」と。で、あれは彼が3年目の時かな。「何か見えるようになったか?」と聞くと、「まだ見えません」だって(苦笑)。キャッチャーが一本立ちしなかったらチームは強くならない。「オマエはオレに辞めてほしいのか!?」と叱ったものです。
もちろん、その時に比べると格段の進歩。今季はさらによくなると思います。それは日本シリーズを経験したからですよ。

二宮 ヤクルト時代の古田敦也も言っていました。「レギュラーシーズンと日本シリーズでは1試合の重みが全然、違う。ひとつのミスも許されない状況でやることでリードが磨かれていった」と。

野村 それは本当にそのとおりです。これは僕の実感でもありますが、過去に名捕手と呼ばれたキャッチャーは皆、日本シリーズを数多く経験している。
短期決戦では余計な点は1点もやれない。シリーズに出てくるようなチームだから、当然、クリーンアップは強力。これらをどうやって抑えるか。僕が27年も現役をやれたのはシリーズに6回出させてもらったからだと思っています。

二宮 昨季、楽天は巨人と日本シリーズを7戦まで戦いました。勝因のひとつは巨人の主砲・阿部慎之助を封じたこと。これは嶋にとっても大きな自信になったのでは?

キャッチャーの素材と指導法

野村 でしょうね。彼はもともと頭がいい。入った時に中学時代の通信簿の成績を聞いたんです。すると「オール5」だと。「10点満点の5点か?」「いや、5点満点です」。それでずいぶん期待したんです。

二宮 なぜ高校ではなく中学の成績を聞いたのですか。

野村 高校は学校によってレベルが違うから、あまりアテにならないでしょう。だから義務教育の中学の通信簿を調べさせる。
だけど嶋の場合、なかなか成長しないものだから、一時は"野球脳"と"勉強脳"は違うのかなと思ったりしていました。ここへきて、やっと両方の頭のよさが合致してきましたね。
キャッチャーは肉体労働者である半面、頭脳労働者でもある。体が弱くても務まらないし、バカはもっと務まらない。これほど一人前に育てるのが難しいポジションは他にありませんよ。

二宮 余談ですが、野村さんが3年間、指揮を執った阪神は、なかなか生え抜きのレギュラーキャッチャーが育ってきません。どこに原因があるのでしょう?

野村 そもそもの素材と指導法、この両方に問題があると思いますね。
素材についてはスカウトが調べることであって、現場の仕事ではない。現場レベルで改善点があるとすれば、まずはバッテリーコーチをきちんと教育することですね。
実は僕が長い間、監督をした中で一番苦労したのが、バッテリーコーチの教育だったんです。というのも、コーチはどうしても結果を見て、その選手を判断する。その典型がバッテリーコーチで、たとえばピッチャーがストレートを投げてホームランを打たれたとする。ベンチに戻ると、必ず言いますよ。「なんでストレートなんや?」って。

二宮 結果論から先に入ってしまうわけですね。

野村 確かに、その配球が明らかなミスだったら、きちんと指導しなければならない。しかし、バッターの読みが当たる時だってあるわけですよ。
そういう時には「あれは仕方がない。向こうがうまく打ったんや」と慰めてやる必要がある。怒られてばかりじゃ、ピッチャーもキャッチャーも自分で考えようとしなくなる。そっちのほうが恐ろしいですね。

二宮 それは野村さんが現役時代に苦い体験をしたからでは?

野村 南海時代の監督・鶴岡一人さんがそうでした。ホームランを打たれて帰ってくると、ベンチで「何、投げさせたんや?」「真っすぐです」「このバカたれが!」。
同じようなピンチで今度は変化球を投げさせたところ、また打たれてしまった。「何、投げさせたんや?」「カーブです」「このバカたれが!」(苦笑)。

二宮 アハハハ。典型的な結果論ですね。

野村 それで、こっちも怒鳴られるのを覚悟で聞きましたよ。「監督、ああいう強打者には、いったい何を投げさせたらいいんですか?」。そしたらひと言、「勉強せえ!」だって。
これはもう聞いても無駄だと思って、ひとりで勉強しましたよ。だから僕の「捕手学」は独学なんです。

二宮 阪神に話を戻しましょう。現在のバッテリーコーチは野村さんの教え子の山田勝彦です。

アメリカでもエースになれる

野村 あぁ、あれは真面目ですよ。楽天のバッテリーコーチ時代、球場に真っ先に来ていました。ナイトゲームなのに朝10時頃には球場にいた。
何をやっているのかというと、ミーティングのための資料作り。あれは熱心な男でした。だから球団も重宝していましたよ。
楽天に来たのも僕が誘ったからではない。本人が「監督の下で野球を勉強したい」と言うから連れて行ったんです。そんな男ですから、彼は今後ますます、いい指導者になりますよ。阪神には梅野隆太郎とかいう、いいルーキーが入ったんでしょう? 山田にはうまく育ててもらいたいね。

二宮 セ・リーグの優勝は「巨人で決まり」というのが野村さんの予想でした。パ・リーグは?

野村 パ・リーグは予想が難しい。どこも決め手に欠けますね。強いて言うなら埼玉西武、千葉ロッテ、そして楽天の争いかなぁ……。

二宮 楽天の連覇はありますか。

野村 僕が監督をやっていた時と違って、フロントがカネを出してくれる。昨季はアンドリュー・ジョーンズとケーシー・マギー。ばりばりのメジャーリーガーを2人も連れてきた。

二宮 野村さんは「中心なき組織は機能しない」というのが口癖ですが、昨季の投の柱がマー君なら、打の柱はジョーンズでした。今季はマギーの代わりにレッドソックスなどで活躍したケビン・ユーキリスを連れてきました。

野村 僕が監督の時にトッド・リンデンという外国人がいた。覚えています?

二宮 2009年のシーズン途中に来ましたが、監督批判をしたり、トラブルメーカーでしたね。

野村 もう集合時間には来ないし、カゼをひいたといっては試合を休むし、どれだけアイツに足を引っ張られたことか……。
聞けばアメリカにいた頃から札付きだったらしい。フロントに「なんで、こんなの獲ったんだ?」と聞いたら、「日本に来たらワガママはやめると思っていました」だって。"三つ子の魂、百まで"と言うけど、人間の性格なんて、そう簡単には変わりませんよ。

二宮 最後にマー君についてですが、メジャーリーグでどのくらいの勝ち星を重ねるでしょう?

野村 相当やるんじゃないかな。ダルビッシュ有もそうですが、今は日本でエースの評価を受けているピッチャーは、アメリカでもエースになれますよ。

二宮 7年総額161億円。移籍金も含めれば182億円。ちなみにマー君以上の契約を結んでいるピッチャーはクレイトン・カーショー(ドジャース)、ジャスティン・バーランダー(タイガース)、フェリックス・ヘルナンデス(マリナーズ)、CCサバシア(ヤンキース)と4人いますが、いずれもサイ・ヤング賞投手です。

野村 それは名誉なことですね。マー君が昨季、24勝もできたのは原点能力に磨きがかかったからですよ。ボールがアウトローにビシッと決まる。日本であれアメリカであれ、困ったらアウトロー。これはピッチングの基本ですよ。マー君にはぜひ、それを証明してもらいたいね。

二宮 ヤンキースでの背番号は野村の現役時代と同じ「19」です。

野村 これも、きっと何かの縁でしょうね。どこまで成長するのか、僕自身、楽しみですよ。

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