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【武豊】目の前のレースに集中するのみ

 『 初心 』

 これは、昨年、iPS細胞の研究で、ノーベル生理学・医学賞を受賞された山中伸弥教授が、色紙に書かれた言葉です。
 2013年---僕自身、この言葉を心に刻み、騎乗するひとつひとつのレースを大切にしていきたいと思っています。
 物心がつくかつかないかの頃に乗せてもらった馬の背中。騎手になることを誓った14歳の決心。競馬学校への入学、卒業……それぞれに決意と思い出はありますが、初心といったらやはり、幼い頃からの夢を叶えた騎手としてのデビュー戦、87年3月1日、阪神競馬の第4レースです。
 パートナーは、アグネスディクター。僕にとってはただひとりの師匠、故・武田作十郎先生が管理するサラブレッドでした。
 ローテーション通りなら、前の週に使うはずだったのを、わざわざ僕のデビュー戦のために、出走を合わせてくれたのです。
 プレッシャーを感じたとか、緊張でガチガチになったという記憶は・・・
 

ないんですよね。

 名だたる先輩が顔を揃えた検量室。思っていた以上に薄暗い地下馬道。ファンの熱い視線を間近で感じたパドック……何もかもが新鮮で、本馬場からスタンドを見上げたときは、「へぇ、こんな景色なのかぁ」と、妙に感心したことを憶えています。
 レースも、スタートからゴールまで、コマ送りで再現できます。スタートでやや出遅れたものの、道中は4、5番手の好位を追走。手応えも良く、4コーナー手前で、アグネスディクターを少しだけ内に入れたそのときでした。
 後ろから、「あっ!」という声が聞こえてきて。慌てて振り向くと、南井さん(現・調教師)が、馬から落ち、直後に、審議のランプが点滅していたのです。

【いまもまだ悔しいデビュー戦の敗北】

 いまの僕なら、たとえ何があろうと……レース後に処分をくだされようとレース中は、心を動かされることなく、ゴールまで全力で馬を追いますが、この頃はまだまだ未熟者でした。
「デビュー戦からやっちゃった……」
 思った瞬間、外にちょっとだけ膨れ、追い出すタイミングがワンテンポ遅れてしまったのです。レース後、南井さんの落馬は僕に関係がなかったとわかったときは、もう後の祭りでした。
 走ることを宿命づけられたすべてのサラブレッドにとって、ダービー制覇のチャンスが一生に一度しかないように、ジョッキーにとっても、初騎乗初勝利はただ一度の機会です。
 この日のために、すべてを整えてくれた武田先生、オーナーさん、スタッフの気持ちを思うと、いまも悔しさがこみ上げてきます。
 何百勝挙げようと、何千個の白星を重ねようと、GⅠのタイトルを幾つ取ろうと、目の前にあるレースに集中しなければいけない。
 たった一度のデビュー戦は、僕に多くのことを教えてくれました。
 

 『  初心  』2013年、今年も武豊は、目の前の競馬に専心します。

【武豊】目の前のレースに集中するのみ

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