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漫画『いちえふ』作者が語る「福島第一原発の真実」

[週刊大衆06月02日号]


『いちえふ 福島第一原子力発電所労働記』(講談社)


福島第一原発を訪問した主人公らが鼻血を出したという描写が大きな話題を呼んでいる漫画『美味しんぼ』(『ビッグコミックスピリッツ』に連載中)だが、原発を描く漫画は、何も同作品だけではない。

2012年6月から約半年にわたって、福島第一原発で作業員として従事した体験を描いた『いちえふ』(竜田一人著。『モーニング』誌に月一連載)も、作業員自身による初の作品ということで、大きな反響を呼んでいる。

この作品が『モーニング』誌に初めて掲載された号は、通常以上に売れたのだ。
さらに、海外メディアからも取材が殺到し、世界レベルでの注目を浴びている。

本誌は、そんな話題の漫画の著者・竜田氏に緊急インタビューを敢行!
福島第一原発で働いていた者にしかわからない現実に迫った――。

福島
(c)竜田一人「いちえふ」/モーニング


「『いちえふ』というタイトルは、地元や現場の作業員による福島第一原発の呼び方です。第一の『1』と、福島の『F』で『1F』です。彼らは、"フクイチ"とは呼びませんね。安全面については、私自身、不安がなかったかといえばウソになりますが、"フクシマの隠された真実"みたいなものがあるとしたら、それを見て来てやろうと思い、事故後1年少し経過した12年初夏に現場に入りました」(竜田氏=以下同)

もっとも、竜田氏は東日本大震災の津波による福島第一原発事故(2011年3月11日)からさほどたたない夏から作業員としての仕事を探していた。

だが、いわば"よそ者"(東京都在住)である竜田氏は、実際に職にありつけるまでに、実に1年も要したという。

「ハローワークで求人を見て申し込んだところ、すぐ5~6社から採用の連絡をもらったんですが、具体的な話になると、工事がいつから始まるかわからないから連絡を待っててくれと言って、それっきり。どうやら、作業計画の段階で元請けに名簿を上げるために人数集めだけをしていたようです。求職開始から10か月近く経って、ようやく現地に呼ばれましたが、ここでもスペースが一人1畳くらいしかない寮で1か月近くも待機。その間、毎日1700円(寮費1000円+2食で700円)が給料から前借りで天引きされるありさまでした。また、仕事が始まっても、求人では日当2万円のはずが、実際は8000円。そこは、6次下請けだったんです」

その後、竜田氏はより元請に近い下請けに入り、日当2万円までアップしたそうだが、半年で作業員生活を打ち切った。

それは会社の年間被曝限度量をオーバーしたためだった。

「最初の現場は、いちえふの作業員の休憩場などでの維持管理だったんですが、その後、原子炉周辺の建屋の中の作業に従事したので、被曝量は2ケタは上がりました。それで、半年で会社の被曝限度量に達してしまったので働けなくなったんです」

法律で現場労働者の年間被曝限度量は50ミリシーベルト。
これに対し、多くの会社は20ミリシーベルト弱と規定している。

しかし、被曝限度量を順守していたら仕事にならない。
APD(個人用線量計)の測定線量を少なめにごまかしたりしている現場はないのだろうか?

実際、12年7月には、APDを放射線を通さない鉛カバーで囲んでいる業者がいたという報道もあったが……。

「APDの数値は、我々作業員は操作できないし、スイッチもなく、ごまかしようがありません。鉛カバーの件にしたって、仮に完全に密閉しても、放射線の強い場所だと、大して意味はないのではないか、と思いますし。それに報道後、APDは、作業に出る際、一人一人、目視してチェックするようになったから、それ以降はどんなごまかしも無理でしたね」

作業員の中にかなりの数のヤクザが入り込んでいるという報道も一部であったのだが、そのことについて、竜田氏はこう語る。

「実際に作業に従事して、よく聞こえてきたのは"(福島県東部の)浜通りなまり"。あくまで私の感覚ですが、約9割、いずれにしろ圧倒的多数が現地の方であるのは確かです。そして、その中には仕事ができなくなった漁師の方もたくさんいます。確かに、私も入れ墨の方を目にしましたが、現地の人と話してみると、漁師の方は海の事故で土左衛門(水難死)になった際、すぐ誰かわかってもらえるように、入れ墨を入れている人が多いそうです」

「入れ墨イコールヤクザ」だと、現場を知らない者が思い込んだのかもしれない。

『原子力ムラ伝説』の"真相"

では、今、物議を醸している"被曝で鼻血"など、作業員の体調変化はなかったのだろうか?

「一緒にチームを組んだ新人が、作業中に頭痛を訴え、全員で休息所に引き揚げたことがあります。ですが、しばらくすると、その新人の具合は良くなりました。どうやら頭痛の原因は、慣れない全面マスクのバンドを締め過ぎていたせいのようです。私の周囲ではさほど大きな問題はなかったですね」

漫画『いちえふ』の中には、こんな描写がある。
〈血圧の上が160だかを超えると原発で働けないから、それ以下で測ってくれるなんて噂がある。こうした『原子力ムラ伝説』はいくつも聞いたが、どれもウラの取れない話ばかりだった〉(一部要約)。

「死んだ外国人作業員を、いちえふの裏でドラム缶に入れて燃やしたなんてデマも聞きましたね。私が、現場で実際に見たことで印象に残っているのは、作業から戻って来た作業員の方がゴム手袋を取ると、汗が音を立てて流れ出るほど溜まっていたこと。夏場の現場での作業は、それほどの過酷さなんです。もちろん、放射線が危ないことは言うまでもない。作業で"馴(な)れ"なんて許されるものではありません」

竜田氏に原発の是非について個人的な見解を尋ねてみたが、彼の回答は「そもそも"是非"などと二元論で語るべきものではないので"ノーコメント"でお願いします」だった。

漫画『いちえふ』は、竜田氏が作業員として目にした"福島の現実"の「労働記」であり、したがって著者の個人的意見は極力排除しているという。

「読者の皆さんの感想の中には、"東電の回し者では"なんてものもありましたね。でも、多くは、"胸に迫るドキュメントをありがとう""福島の作業員の方々のおかげで、作業は進んでいるんですね""作業員にマイナスイメージを持っていたが、見方が変わった"など、励ましのものが圧倒的でした」

漫画は、ようやく最大関心事である建屋作業の段階に入ったばかり。
竜田氏は残りの体験記を描き上げたあと、再度、「いちえふ」で働くことを検討しているという。

原子炉6基すべてが廃炉になる福島第一原発だが、今後の収束作業も決して予断を許さない。
竜田氏が漫画で伝える「福島の現実」を、これからも注視すべきだろう。

福島
(c)竜田一人「いちえふ」/モーニング


竜田一人(たつた かずと)PROFILE
大学卒業後、職を転々としながら、売れない漫画家としても活動。
東日本大震災後、当時働いていた会社を辞め、被災地のためになる仕事に就くことを決意し、紆余曲折を経て福島第一原発で働くことに。半年ほど働いたところで会社の定める年間被曝限度量に達したため、いったん首都圏にある自宅に戻る。
その後、見てきたものを漫画にしようと思い立ち、この『いちえふ』を描き始める。

漫画『いちえふ』作者が語る「福島第一原発の真実」

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