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第8回 向田邦子が愛した和菓子「菊家」を守る粋な女将-秋田隆子さん

2014-06-06

100年先まで残したい「超・人間カタログ」東京レジェンドNAVI


骨董通りを高樹町の方へしばらく歩くと、老舗和菓子屋の「菊家」さんがある。御茶会のお菓子として有名なこのお店を早速訪ねてみた。
洒落た木の扉を引くと、お店の中から、「いらっしゃい」と、女将の秋田隆子さんの粋な声が出迎えてくれた。
菊家さんは、創業80年。当初は昭和10年に表参道の交差点にお店を構えたが、戦争が激しくなり、一時、三軒茶屋に疎開した。その後、昭和25年に骨董通りの今ある場所にお店を構えた。
「東京は地方に比べて、新興財閥が頑張ってたから、材料には余り困らなかったのよね。戦時中でもお菓子を作り続けることが出来たのよ」と話してくれた女将さん。

早速、いつものように「東京で生きるとは?」を聞いてみた。
「東京って、テンポが速くて、騒がしいイメージがあるわね。とにかくスピードが早い。何でもあるしね。そういう街で代々和菓子屋をやって、長いことお菓子をずっと作り続けてきたの。どんどん新しいお菓子屋さんも出来たけど、長く続くところは多くはなかったわね。 うちがずっと長く安定して続けてこられたのは、"東京の良さ"を守って来たからだと思ってます」

「なるほど、その"東京の良さ"っていうのは、具体的にどんなことなんでしょう?」
「もともと、日本の文化って"京都"から来てるでしょ? だから、東京のお菓子職人はよく京都に修行に行くのよね。でも、うちの先代は銀座、江戸前のお菓子の作り方を大事にしてきたの。それぞれの城下町の味をベースとして作り上げた、菊家独自の味を大切にして守って来たのね。京都と東京では、"あんこ"の練り方も違うのよ」

そんな"菊家"さんの味が好きで通っていた著名人も多く、私の大好きな作家・向田邦子さんも自身のエッセイで「菊家」さんのお菓子を取り上げる程のお気に入りだった。
店内には、そんな向田さんと先代の女将さんとが仲良く談笑している写真も飾られている。
「昔からあるところ…ともいうべき安心感と伝統があるような"本物"を作っていく。そして、それが私たちにとっては当たり前のことなんですよね」
「本物の味……」
「そうね。やっぱり、"こだわり"を持って生きていかなきゃね。お菓子のデザインはすべて主人のアイディアだし、常に世の中を見て、その時、目に入った物を表現して形にするの。御茶会の場というのは、先生によってつくる世界観も違うから、その先生のお話を聞いた上で、さっと理解してお菓子を作るの。色々な場面、お話に対応出来なきゃいけないわね」


現在、"あんこ"の3割が日本産だと言う。あとの7割が海外から仕入れている現状だとか。
「今って、あずきではなくて、あんこの状態から仕入れるところが多くなったでしょ? あずきからあんこを作るのだけど、あんこの味を出すのに何十年ってかかるのよね。だから、難しい。主人は50年近くお菓子作りをして来た人だけれど、理論じゃなく、感性の中で生きてる気がするわ」
菊家には、地元の人達はもちろん、外国の方々もお菓子を買いにくる。お菓子作りは、体力勝負、肉体労働だと言う女将さん。あんこを練るだけでも、相当の力が必要だとか。だから、常にお菓子職人は健康でなければいけない。
そして、毎日毎日のお客様が大切だから、たった1分、1時間でも大切だと語る。
「皆さんに、"本物の味"を知って欲しいと思ってます。本来持っている"味覚"が落ちないようにしてほしい。味覚って本当に大切で重要よ。"本物"の和菓子は、化学調味料で作ったものとは全く違うものだと知って欲しい。油や脂肪分は太るけど、和菓子には入ってないから糖尿病にもなりにくいですしね」
「女将さんの将来の夢って何ですか?」
「そうね~。35年間、お菓子作り一筋の主人を支えて来て、大変な時もありましたけどね。主人は三代目だから、先代が残してくれたお店をしっかり守らなくては、という責任もあった。でも、楽しかったし、良かったわ。これからも、ずっと和菓子の文化、菊家を守っていきたいですね。うちは味が変わってないからね。ごまかしがきかないのよね(笑)。それと……。」
「それと……なんでしょうか?」
「監督さんは、うちのことを"老舗"っておっしゃって下さるけど、まだ80年なのよね。やっぱり、老舗って言うからには、100年は続けなきゃと思ってるの(笑)。だから、あと、20年は当たり前の努力をして、この味を守って、主人を守って頑張らなきゃと思ってるのね。本当に良い物だけを作り続ける……。100年経った時に、やっと老舗になれるかしら? それが私の今の小さな夢ね」
取材が終わり、店頭に並ぶ色とりどりのお菓子を買って帰った。女将さんが、あるお菓子を指さして、
「そうそう、このお菓子ね。向田邦子さんが大好きで、いつも食べて下さってたものなのよ」
原稿を書きながら、そのお菓子を楽しむ私。
時が経っても、好きな人と"味"を共有出来るって本当に幸せですね。
きっと、向田さんも原稿を書いてる時に、変わらないこの味を楽しんでいたんだと思います。


菓匠 菊家
東京都港区南青山5-13-2



寺西一浩(てらにし かずひろ) プロフィール
1979年10月2日生まれ
3歳で、女優・山岡久乃に見初められ子役として活動。慶應義塾大学法学部卒業。慶應大学在学中に出版したエッセイ『ありがとう眞紀子さん』が話題となり文壇デビュー。
その後、24歳の時、業界最年少で芸能プロダクション、株式会社トラストミュージックエンタテインメント代表取締役に就任し島倉千代子歌手生活50周年事業を成功させる。
その後は、小説家、プロデューサーとして活躍。著書に、「クロスセンス」「新宿ミッドナイトベイビー」「女優」、世界初電子書籍連載小説「Mariko」を配信。
2011年、「女優」が映画化されるにあたり、自身が監督デビュー。
「女優」は、第15回上海国際映画祭正式招待作品に選ばれ主演・岩佐真悠子とレッドカーペットを歩く。また、第25回東京国際映画祭、東京中国映画週間特別上映作品に選ばれ開幕式でグリーンカーペットを歩き話題となる。2013年、映画「東京~ここは、硝子の街~」を監督・脚本・プロデュース(出演:中島知子、田島令子他)。日本最大級の男性ファッション&音楽イベント「東京ボーイズコレクション」を大原英嗣氏と共に主催。ゴールデンバード賞主催。2014年、「新宿ミッドナイトベイビー」が映画化決定。


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