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【ある路地裏の女達】 2/4話

2014-07-22

恐怖とエロスの貴婦人 岩井志麻子の 路地裏ホラー

私の故郷の岡山には、ナメラ筋と呼ばれる場所があった。魔物が通る道、異界の者が行き来する通路だ。そこに会社や家や店を作ると、必ず倒産したり離散することになる。
決して、おどろおどろしい雰囲気の場所ではない。昔そこは戦場だったとか、大量殺人があったとか、そんな恐ろしい故事来歴もない。なんてことない場所でしかないのだ。

そんな交通量も多くなのに事故の多発する通りなど、何かの磁場がおかしな場所は都会も田舎も関係なくある。ほとんどが、一見すると平穏な場所であるのがよけいに怖い。

先日、アダルト雑誌の編集者である文月くんに会ったのでそんな話をしたら、「都会のナメラ筋かどうかは知らないけど、街なかの怪奇現象ってなぜか地上六階から八階の間に集中しているんだよ。その辺りが、魔界や異界と接しているらしい」
などといわれた。狙った訳ではないが、私は新宿のマンションの七階に住んでいる。

そして鈍い私にも「あ、ここはナメラ筋」とすぐにわかった道が近くにある。ラブホテル街の一角なのだが、毎日のようにパトカーや救急車、消防車が止まっている。

文月くんは先日そこを歩いていたら、いわゆる立ちんぼに声をかけられたという。それが一カ月ほど前にヌードを撮った、アダルトモデルのジュラちゃんによく似ていた。こんな暑い季節なのに分厚いコートを着て、口紅を塗っていても唇がひび割れていた。

「この辺りは一人で歩いちゃだめよ。誰かと一緒でなきゃ。あたし、どう? 一人だと引きずり込まれるわよ。ホテルにじゃなく、怖い道の裏側に」
彼女自身が道の裏側に引きずり込まれた人か、道の裏側に住みついている人だという気がした。だから文月くんは、彼女とホテルに入ってしまった。確かに、一度見た体だった。

ただ煙草を押しつけた全身のヤケド痕が、ジュラちゃんよりすごかった。


岩井志麻子(いわい しまこ) プロフィール
1964年12月5日生まれ
A型
高校在学中の1982年、第3回小説ジュニア短編小説新人賞に佳作入選。少女小説家を経て、1999年『ぼっけえ、きょうてえ』が選考委員の絶賛を受けて、日本ホラー小説大賞 を受賞。 半生を赤裸々に語るトークや「エロくて変なオバチャン」を自称する強烈なキャラクターが注目を集める。

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