関西に生息するアヤシくてオモロい人たちに、大阪出身・京都在住の人気ライター・吉村智樹が直撃インタビュー!
■マニアックさで知られる芸人はなぜラブソングを歌ったのか!?
芸人生活30周年を記念して、CD『ウミガメ』をリリースしたのが山田ジャックさん(51)。ウミガメが好きだった、かつての恋人を慕いつつ、愛する気持ちは永遠に続くのだと歌う、切ないラブソングだ。
「あの山田ジャックがラブソングを? 嘘だろ~」と、信じられないお笑いファンも多いだろう。なぜならば、彼が30年にわたってやり続けたネタは、ラブソングとは対極にある、危険な「ブラックジョーク」だったのだから……。
平成4年に漫才コンビでデビューした彼。しかし、なかなかウケなかった。好きな笑いは、大川興業や浅草キッドのように世相を斬ったり、放送コードのギリギリを攻めた毒舌系。
ところが、当時の関西には社会風刺ネタを受け入れる土壌がなく、特に若い女性の観客からは、総スカンを食らったという。
「関西では芸人がアイドルと同じくらいもてはやされ、人気芸人には黄色い声援が飛び交います。僕らのようにマニアックなネタをする芸人は、相手にされませんでした」
■『ウミガメ』を生んだ伝説の男のひと言!
彼は、それでも自分が愛するディープな笑いを貫き、事務所を退社。ピン芸人となって、フリーランスに転向した。そして、路上生活をする人たちに酒やタバコを勧めながら強烈なエピソードを聞き集めて舞台で披露するなど、ノンフィクション芸を確立。「ギリギリアウト」というイベント名で公演を続け、根強いファンに支えられてきたのだ。
そんなある日、彼は伝説のアーティストが発したひと言に衝撃を受ける。
「以前、舞台と飲み屋が一緒になったディグダグという店をやっていたんです。その店の最終日に晩年の遠藤ミチロウさんをお招きし、歌ってもらいました。ミチロウさんがボーカルを務めるパンクバンド、ザ・スターリンの大ファンだったんです。そんなミチロウさんが店を閉めた後、ぼそっと“歌って結局、ラブソング以外はいらないんです”と言った。その言葉に驚いてしまって」
豚の首や爆竹を客席に投げ込んだり、ステージで放尿したりするなど過激な演奏で話題となった遠藤氏が、亡くなる数年前に悟ったように語った「ラブソング以外はいらない」という言葉を、ジャックさんはずっと覚えていたのだそうだ。
そうして、「30周年という節目に、自分もラブソングを歌おう」と決意。
「ウミガメの歌詞は実話です。50歳を過ぎて、30周年を迎えて、自分の中の照れくさい部分を、さらけ出してみようと思ったんです」
8月30日(火)、ロフトプラスワンウエストで30周年イベントを開催する山田さん。皮肉が効いた芸風からは想像がつかないピュアな愛の歌は、これからも、お笑いという名の深海を、ウミガメのように泳いでやるという所信表明でもある。
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