■登場人物それぞれの“囲碁愛”“ペア碁愛”に魅せられる!

 競技である以上、ペア碁にはもちろん勝敗がある。しかし冒頭で“究極の心の対話(コミュニケーション)”と打ち出されている通り、本作においてペア碁は単なる競技として以上に、人と人がつながる手段としても描かれている。

 群舞は、とある過去からコミュニケーションが苦手になってしまったのだが、囲碁を通じてはじめて人とつながれたと感じた経験を持つ。そして普通の囲碁では萎縮してしまう彼がのびのびと碁を打てるのが、ペア碁という場なのだ。

 群舞は勝敗より何より、いろんな人と碁を打って相手のことを知りたいという欲求に突き動かされている。今後の棋士人生がかかったペア碁の大会にて、二回戦で強敵ペアと当たってしまった際も、勝ち負けなど忘れて“あの人の事もっと知りたい…はやく…打ちたい…”とつぶやいていたのが印象的だった。

 そんな群舞のほかにも、どんな相手でも手加減なしの真剣勝負で挑む者、ペア碁を世の中に広めるために奮闘する者、囲碁をやっているときだけありのままの自分でいられると感じる者……それぞれの形で囲碁およびペア碁を愛するキャラクターが登場する。最初は群舞のために仕方なくペア碁を始めたのぞみでさえ、次第にその魅力にのめり込んでいくのだ。

 またプロやプロを目指す者だけでなく、ただ囲碁を愛するアマチュアのプレイヤーが描かれているのも本作の良いところ。いろんな人たちがペア碁に夢中になっていくのを見ていると、気付いたときにはこの競技のことをもっと知りたくなっていることだろう。 

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