関西に生息するアヤシくてオモロい人たちに、大阪出身・京都在住の人気ライター・吉村智樹が直撃インタビュー!
■屋台寄席にオンライン落語…落語文化のない土地で大奮闘
新作落語の面白さに定評がある月亭太遊さん(38)が、4年間にわたる九州移住を終え、大阪へ帰ってきた。上方落語家が、なぜ九州に拠点を移していたのだろう。
「きっかけは2016年に九州を襲った大きな地震です。僕はもともと大分出身なんですが、芸人になりたくて、高校を卒業してすぐに大阪へ出てきたんです。だから自分が九州人だという自覚があまりなかった。そんな九州に大地震が起きて、とても心配になったんです。そして“地元で落語家として暮らしてみたい”と考えるようになりました」
震災で心が痛み、九州が気になり始めた彼。別府にある、アーティストが集まるアパートに転居した。
「落語家がいない九州だから珍しがられ、引く手あまたになるだろうと期待した部分もあります。考えが甘かった。落語会やイベントの仕事の依頼は、ほどんどありません。しかたがなく、住んでいるアパートの一室や公民館を借りて、自分で独演会を始めたんです」
新作落語を得意とする彼だが、落語を生で鑑賞する習慣がない九州では、いきなり新作で笑わせるのはハードルが高かった。古典落語の「時うどん」を九州弁にアレンジするなど工夫をしながら、観客に理解してもらう努力を続けたという。
そんな太遊さんが落語をさらに広く知ってもらうために行ったのが「屋台寄席」。車輪がついた舞台を自分で引っ張って移動し、落語を披露するのである。まるで、昔の紙芝居だ。
「別府の温泉街の公園に屋台を運び、ゲリラ落語をやりました。風呂上がりで機嫌がよくなったおじさんたちが集まってくれて、よくウケましたね」
■芸の肥やしとなった九州で過ごした日々
屋台での落語は話題となり、本州でも上演の依頼が相次いだ。ただ、フェリーに積み込む際、「これは、どういう種目の車両?」と運航スタッフが頭を抱えたという。
このように地道な活動のかいあって、少しずつ九州にも彼の落語が浸透していった……のだが、状況が一変する。
「コロナ禍で、人前で落語ができなくなりました」
緊急事態宣言・まん延防止等重点措置の影響で芸を披露できず、やむを得ず自室から落語の配信を始めた。オンライン落語は、なんと108日間も続いた。
「自分の中の蓄積が尽きた気がしました。関西の寄席で、もう一度、落語を磨きたいと思い、戻ってきたんです。ただ、九州で過ごした4年間は本当に勉強になりました。周りに芸人が一人もいない状況で、一般の方々と触れ合ううちに、落語に登場する人物像が、よりリアルになった。以前よりも落語がウケるんです」
周囲に芸人がいないからこそ、庶民像をしっかり描けるようになったという。「話芸の修業とは何か」を、改めて考えさせられた。
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