■今季から新ルールが導入されて
そんな大谷に、さらなる追い風となっているのが、今季から導入された新ルールだ。
中でも、15秒以内(走者がいる場合は20秒)に投球動作に入らなければ1ボールのペナルティが課されるピッチクロックの導入と、極端な守備シフトの禁止は、長打を狙う大谷にも大きなプラスとなっている。
「前者は、打者にも制限時間の8秒前に打つ準備を完了するという制約があって、投手が投げ急ぐケースもまだまだ多い。そこでの甘いボールを逃さず捉えることができているというのは、一つ言えると思います」(福島氏)
守備シフトの禁止については、「二塁ベースを挟んで両サイドに必ず内野手を配置しなくてはならない、というもの。これにより引っ張った打球が長打になるケースが、特に大谷のような左打者に増えています」(前同)
なお、ここまで大谷が放った16本塁打のうち、センターからレフト方向、いわゆる逆方向への打球は、わずか2本。
引っ張りが目立つのも、今季の打者・大谷に見られる顕著な傾向だ。
「打率も追い求めるなら別ですが、本塁打に限れば、最短距離でスタンドに届く引っ張りがベスト」(同)
■超一流の投手であるという最大の“強み”
最後に、大谷だけが持つ唯一無二の強みを一つ挙げよう。
それは、彼が超一流の投手でもある、ということを置いて他にない。
現役時代に、野村ID野球の薫陶を受けた秦氏は、こう話す。
「恩師の野村(克也)さんは“敵を知り、己を知る”と、よく言っていましたが、投手として対峙してきた各種の対戦データや打者心理の蓄積は、間違いなく打席でも役に立つ。フィジカルだけでなく、優れた“野球脳”を持っているというのも、かなりのアドバンテージになっていますよね」
実際、今季からはサイン伝達のための無線機器、ピッチコムも本格導入。
大谷は自ら捕手にサインを伝えて、すべての投球を自ら組み立ててもいる。
「彼ほど投手心理の分かる打者も、この世にはまだ他にいませんしね」(前同)
日本人初のメジャー本塁打王に向け、“ショウタイム”は続く。