プチ鹿島の連載コラム 「すべてのニュースはプロレスである」

「茜色の空 哲人政治家・大平正芳の生涯 」(辻井喬・文春文庫) という本を読んだ。

4月から消費税アップということで、70年代に「一般消費税」を導入しようとした第68.69代内閣総理大臣・大平正芳のことをあらためて知りたいと思ったからだ。

現役時代、その「アー、ウー」という言葉にならない言葉をテレビで物真似されていた大平首相。子ども心にもあまり切れ者には見えなかった。

今読むと大平氏は「環太平洋連帯」「文化の時代」「地域の自主性」など、21世紀の日本を見通していたようにも思える。

この本で興味深いのは、大平がまだ若手だった頃の岸信介首相時代の描写でもあった。岸信介は現首相の安倍晋三の祖父である。

「岸内閣は警察官職務執行法の改正案上程といい、日米安全保障条約改正案の進め方といい、敗戦以前の警察国家の感覚で政治を動かしているという印象を社会に与えるような運営が度重なった。」(P220)

どことなく似ている。

安倍政権による、去年秋の臨時国会での「特定秘密保護法案の採決」や、いま渦中の「憲法解釈変更による集団的自衛権の行使容認」を巡る状況と。

ここで思い起こしたいのは、「プロレスはプロセス」という重要な事実である。

プロレスというジャンルは結果よりも内容が問われる。観客という名の「有権者」が納得のいくものを見ることができたのか? それが大事だ。

特定秘密保護法も、集団的自衛権の解釈も、「結果」の前に、いかに観客が満足する「プロセス」を見せることができたのか。技の応酬を見せてくれたのか。

観客を置いてけぼりにしてはならない。

これもプロレスで学んだことである。


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