アツアツのご飯に、甘辛いダシで煮込まれた牛肉と玉ネギをぶっかけて喰(く)らう――われらが愛する「牛丼」。

「ウマい」「安い」「早い」この"国民食"が、一つの岐路に立たされている。

そう、4月1日に実施された消費増税の影響だ。
「3大牛丼チェーンの牛丼(『松屋』は牛めし)は、長く、280円で価格が横並びとなっていました。しかし、この増税のタイミングで、『吉野家』は20円、『松屋』は10円の値上げ。一方で『すき家』はなんと10円の値下げを断行しています」(経済誌デスク)

消費増税関連ニュースの中でも、大いに注目されたこの価格改正。
B級グルメ探究家の柳生九兵衛氏は、こう語る。

「値上げにともなって、使用する牛肉を"熟成肉"に変え品質を向上させるという『吉野家』には、老舗のプライドと、味への絶対的な自信を感じますよね。『松屋』の10円値上げは想定内でしたが、驚いたのは『すき家』の値下げ。強気の攻めの姿勢は、今や店舗数、売上高で業界トップを走る余裕からでしょうか。ビックリしましたね!」

今後の牛丼業界は、どうなるのか?

興味は尽きないが、それも、牛丼が私たちにとって非常に身近な存在であることの証。
ということで、今回は、消費増税に負けないオトコ飯に肉迫。

知れば、もっとウマくなる垂涎必至の「牛丼のヒミツ」を33連発!

まず、3大チェーンの成り立ちから。
それぞれのルーツがまったく異なることを、ご存じだろうか?

最も歴史の古い『吉野家』は1899年、日本初の牛丼店として、日本橋にあった魚市場にオープン。

「創業者の松田栄吉の出身地である現・大阪市福島区吉野から、店名の"吉野"が屋号として付けられたそうです」(フードライター)

その後、魚市場の移転にともなって築地に移転。
この創業店舗〈築地1号店〉は、現在も牛丼ファンの聖地となっている。

「取り放題の紅ショウガの設置、24時間営業の開始など、現在の牛丼店の原形を作ってきたのは、この『吉野家』。今も、券売機でなく食後にレジで会計するのは、お客さんとのコミュニケーションを大切にする精神から。店員さんの気持ちのいい"ありがとうございました!"こそ、老舗の誇りなのでしょう」(前同)

対する『松屋』は、1966年に東京都練馬区にオープンした『中華飯店松屋』がルーツ。
その後、独自の研究を続け、68年、近隣に、牛めし・焼き肉の定食店『松屋』を開店。
大きく成長を遂げた。

最後発ながら、現在、業界トップの『すき家』は、82年に開店したお弁当店『ランチボックス生麦店』(横浜市)から始まった。

その約半年後に『すき家生麦駅前店』を開き、牛丼店として歩みをスタートさせた。

「『すき家』の名前は"すき焼き"が由来の一つ。創業当初は〈すき焼きディナーセット〉というメニューを扱っていた」(前同)

食べてみると、『吉野家』と比べて、『松屋』はややアッサリ、『すき家』は少し甘めの味つけに感じるが……結局、どれも全部ウマい!この3大チェーン以外にも、特に関西地方に出店の多い『なか卯』、実は神戸に店舗がない『神戸らんぷ亭』も、多くの牛丼ファンに親しまれている。

その『なか卯』のヒミツが、これだ。

「人気コミック『キン肉マン』では、主人公の大好物として牛丼が描かれています。しかし、実は、このモデルは『吉野家』ではなく『なか卯』。大阪・住之江にあった店舗だと、作者が明かしています」(漫画誌編集者)
『キン肉マン』の牛丼は『なか卯』だったのだ。

牛肉にも各々、こだわりがある。
『吉野家』は、ほとんどがアメリカ産の「ショートプレート」という赤身と脂身のバランスのいい部位。

『松屋』は、アメリカ産とカナダ産。

「『すき家』は、オーストラリア産のオージービーフが中心。オージービーフは基本、1頭買いがルール。一見、ロスが多そうですが、親会社『ゼンショー』が抱えるグループ企業の焼き肉店『宝島』、ハンバーグ店『ビッグボーイ』などと分け合って使い切ります。だからこそ、低価格での提供が実現できるんです」(流通ジャーナリスト)

日本を訪れる外国人は、牛丼の安さと高品質に驚くというのも、さもありなん。

牛丼はニッポンの誇り!


ドレッシングでちょい足しを

肉を仕入れた後、キッチン内での味付けや調理の工程でも、ヒミツがいっぱい。
「肉料理には"赤ワイン"が常識とされていますが、3大チェーンとも、使用しているのは白ワイン。ちなみに、『すき家』の牛丼の甘みはフロリダ産グレープフルーツ果汁によるもの」(前出・フードライター)

味やサービスの進化は、むろん各社の努力の賜物。

とはいえ、同時に、お客さんが進化をリードしてきた一面もある。
「『松屋』でお馴染みの"カレギュウ"は現場主導でできた商品。カレーと牛皿を別々に頼んで、相がけして食べるお客さんが多く、"それなら最初から一緒にして提供しちゃおう"となって商品化されたんです。ただ、慌てて導入したせいか、最初は別々に頼んだほうが20円ほど安かった。しかも、牛肉の量も多かったから、初期のカレギュウは損なメニューです(笑)。値段も量もすぐ改良されましたが」(『松屋』でのバイト歴10年のフリーター)

カレギュウは狙いどおりにヒット商品となり、今では3大チェーンすべてに、同様のメニューがある。

また、つゆを多めにしてもらう"つゆだく"といったオーダーも、常連客が生みだしたという。

「"つゆだくだく""つゆだくだくだく"とエスカレートさせてていったのも、牛丼ファン。今では"つゆ表面張力"との究極オーダーも誕生している」(前同)

つゆだくのほかにも、玉ネギ多めの"ネギだく"、肉の脂身の部分をたくさん入れてほしいときの"トロだく"など、そのバリエーションは増え続けてきた。

「『松屋』では、玉ネギとつゆの量は、いくらでも注文に応えていいと言われています。それを知ってか、"ネギ山盛りで"と頼むお客さんも、たまにいらっしゃいます」(同)

さらにさらに、一部地域では、こんな注文方法もあるという。

「キムチ牛丼のキムチ多め(たくさん)を"キムタク"と言います。大阪のホストたちが、面白がって使い始めたとの説が有力です」(フードライター)

このように、オーダーや食べ方を自在に工夫できるのも、牛丼の魅力だ。

「まかないで牛丼を食べる『松屋』の社員やアルバイトも、いつも"ちょい足おいし"して美味しい食材は何か、いろいろ試しています。密かに人気なのは、カウンターに備えつけのサラダ用のフレンチドレッシングをかける食べ方です」(前出・フリーター)

実際にやってみると……
酸味が全体の味をシメて、すごく美味しい!

また、庶民の味方の牛丼ではあるが、芸能界にも、ファンを公言する人は多い。
「眞鍋かをりは、渋谷の吉野家で牛丼を食べて出てきたところをスカウトされたのが、芸能界入りのきっかけ。今も、牛丼を並盛りのつゆだくにして、おしんこと卵を頼み、全部を混ぜて食べるのが好きだそうです」(芸能記者)

この牛丼×生卵×おしんこは、前出の柳生氏も推す食べ方。
いただいてみると、う~ん、スルスル食えてウマい!

さらに、番組内で"牛丼愛"を盛んにアピールしたとんねるずの木梨憲武は、『吉野家』から名入りのどんぶりと湯呑(ゆの)みが贈られたという。
羨(うらや)ましい!

「華原朋美も牛丼好きで有名。"つゆだく"という言葉を広め、牛丼人気を加速させたのは、彼女だと言われています」(前同)

また、"浪速のモーツァルト"こと作曲家のキダ・タロー氏も牛丼ファン。
今回、こんなコメントを寄せてくれた。

「自宅で熱燗の日本酒を飲みながら、『吉野家』のレトルトを食べるのが好きなんです。私にとって牛丼は、牛肉と白米という、戦時中では考えられない2つのぜいたく品が組み合わさったご馳走。今も、"ああ、ぜいたく品だなあ"と感じながら、最後まで美味しくいただいてます」

牛丼が、老若男女に愛される"日本のソウル・フード"であることを、改めて感じるばかりだ。

さて、現在、こうした牛丼ファン一同が熱い眼差しを向け、憧れる牛丼がある。
「昨年10月、衆議院本館の裏手、国会傍聴者向けの土産物店などが並ぶ一角に『吉野家』が〈永田町一丁目店〉をオープンさせたんです。そこでは、国会だけの限定メニュー、1200円の〈和牛牛重〉が食べられるんです」(夕刊紙デスク)

そこで今回、本誌は読者を代表し、この「牛重」を試食してきた。


厚い和牛がぜいたくに居並ぶ

オーダーから10分、ようやくお重が到着……なんとも芳醇(ほうじゅん)な匂い。
まるで、高級すき焼きのような、深みのある肉の香りである。

フタを開けると、これまたすごい。
厚く大きな和牛が、ぜいたくにドドンと居並ぶ。食べ頃に炙(あぶ)られた長ネギが3つ、上品に配されていて……ここは、どこの料亭!?

さっそく口に運んでみる……はぁ~、たとえようのない強烈美味!
濃厚な味付けに負けない肉の旨味は、さすがは和牛……政治家先生に嫉妬!?

では最後に、皆が大好きな牛丼を、さらに美味しく食べる方法を紹介しよう。
「肉やつゆを継ぎ足しながら煮ていると、次第に肉のカスや油カスが溜まっていって味が落ちてくるんです。そのため、牛丼店では、こまめに油を取り除き、1日数回、こし布でツユをこす"タレこし"という作業を行っています。この"タレこし"の直後の牛丼は、余計な雑味がなくなって、ひときわ美味しいんですよね」(柳生氏)

よく行われているのは、お昼のピーク時のあと。
午後2時頃を狙って行ってみると、いつもより美味しい牛丼が食べられるかも!?

そして、より安く食べるには、これだ。
「各社が、携帯電話やスマホで使える"モバイルクーポン"を発行しています」(前同)

さあ、今日も牛丼を食べて、がんばろう!

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