「わたし、アイコ、仕事は声優……」
年齢は26歳から30歳。
髪はロングで、女優・加藤あい似の美人だ。
そんな女性と街で知り合い、飲みに行った末、こんなことを言われる。
「電車がなくなったから、今夜はもう家に帰れない」
向かうのはホテルか、自宅か――
きっと、ほとんどの男性は、そんなスケベ心を抱くことだろう。
しかし、「声優のアイコ」は男の下心を見透かしたように、隙を見て相手の飲み物にそっと睡眠薬を入れる……。
その後、ホテルへ行き、男性が睡魔に襲われて眠りにつくや否や、現金や高額な腕時計などを盗んで逃走する。いわゆる昏睡(こんすい)強盗と呼ばれる手口の犯罪だ。
昨年の10月から同じ手口で自称・声優のアイコの被害に遭った男性が、少なくとも東京都内に10人以上はいるとみられる。
警視庁はさる4月2日、アイコと名乗る連続昏睡強盗魔の映像を公開。
一般市民に情報を求める公開捜査に踏み切った。
ネットやテレビで、この映像を見た読者諸兄も多いはず。
目黒区内のコンビニの防犯カメラがとらえた映像だ。
女はバッグを腕に、ヒョウ柄のベレー帽をかぶり、ピンクとベージュのミニスカート、短めの紺のダッフルコートを着て、被害男性とともに店に現れた。
後に、持っているバッグは特定の店のノベルティグッズであることも明らかになる。
映像の中のアイコは、しきりに髪に触れ、ときおり笑みを浮かべつつ、楽しそうにステップを踏むような要領で足を軽く上げる姿も見せている。
「このとき被害に遭ったのは、不動産業を営む32歳の男性でした。一度、彼女が賃貸物件の相談で男性の店に現れ、去年の12月14日の夜、公衆電話で呼び出された。その後、被害に遭ってしまったそうです」(全国紙社会部記者)
コンビニで酒を買ったあと、男性の自宅マンションで酒を飲み、男性はいつしか眠りこけてしまう。
朝10時に目覚めると、当然アイコの姿はなく、現金5万7000円と腕時計など、時価総額45万円相当の品が盗まれていたという。
「男性から被害届が出されましたが、犯人の行方がわからず、警視庁は公開捜査に踏み切ったんです。それ以来、ほぼ同様の手口でアイコとみられる女性に被害に遭ったという複数の男性から、警察などへ相次いで情報が寄せられています」(前同)
冒頭の男性(40代)は、昨年の10月、JR山手線の恵比寿駅前で彼女に声をかけられ、品川区内のホテルで被害に遭った。
また12月24日のクリスマスイブには、会社員の男性が、やはりアイコと思われる女性から現金30万円を奪われていた。
「彼は渋谷区内の飲食店で女と知り合ったあと、自宅で酒を飲み、"一気飲みしよう"と彼女に言われたそうです。ほかにも、渋谷や六本木の駅前で彼女と知り合い、昏睡強盗の被害に遭った男性がいます」(警視庁関係者)
「犯人は100%、女です」
渋谷、恵比寿、六本木、目黒、品川……どうやら、この昏睡強盗魔は山手線沿線や、その周辺の繁華街を中心に出没していたようだ。
はたして、犯人と目される「声優のアイコ」とは、いかなる女なのだろうか?
「"声優のアイコ"について相当調べましたが、そんな声優はいない。間違いなくウソでしょう。ただ公開された映像で犯人の特徴ははっきりわかりますし、警察が公開捜査に踏み切った以上、目撃情報などからすぐ逮捕されると思っていました」(ワイドショー関係者)
防犯カメラに映っていたノベルティグッズのバッグから足がついてもよさそうなものだが、「アイコ」は公開捜査から2週間以上経っても逮捕に至っていない(4月17日時点)。
「あの防犯カメラの映像の印象が強すぎて、逆に実在の人物とつながらない、という声が上がりました。そこで浮上したのが女装説です」(前出・警視庁関係者)
犯行時だけ女装し、普段は男の姿でいられたら、お手上げだ。
「目鼻立ちの整った男性なら、化粧で十分ごまかせます。映像で犯人はやたらと髪に触れるしぐさを見せ、髪を気にしているようですが、あれは"かつら"だという噂もあります」(前同)
しかし、捜査関係者によると、「警視庁では被害男性からの詳細な聞き取りをもとに、犯人は女性だと断定している」と言う。
では、なぜ逮捕されないのか?
元警視庁刑事で「日本安全保障危機管理学会」顧問の北芝健氏は「犯人は100%、女です」と断言しつつ、捜査が難航する理由について、こう語る。
「まず、犯人は相当に悪知恵の働く人物でしょう。("7つの顔を持つ女"として有名な)福田和子は殺人容疑で逮捕されるまで15年間逃走し続けましたが、その間、警察は何度も彼女を追い込みました。しかし、彼女はギリギリのところでうまく逃げ切ったんです」
さらに、こんな可能性にも言及する。
「すでに犯人が海外へ逃亡している可能性もあります」(前同)
実は、この「海外逃亡説」に関連し、本誌に気になる情報が寄せられたのは4月上旬のこと。
「公開された映像で、犯人の女が歩きながら、足を軽く上げるシーンがあるでしょう。ダンスでもしているかのような……。それを見た瞬間、"あれ、あの女じゃないか?"と思ったんです」
こう証言するのは、貿易関係者のA氏。
彼は数年前、アジア地域へのコンパニオンあっせんのため、求人募集をしたことがあった。
「あるクライアントから、海外でコンパニオンとして働けるモデルを紹介してほしいという依頼を受け、募集をかけたんです」(前同)
彼女たちの渡航先はアジアの有名な某都市。
繁華街のクラブで客と"夜のつきあい"をするのが主な仕事だった。
彼女たちは現地で何をしていたのか。
アジアの売春事情に詳しいフリーライターが、こう解説する。「"ショート"といって、時間を限ってお客さんに"奉仕"するサービスの場合、1回2万円が彼女たちの懐に入ります。現地の貨幣価値を考えると破格ですが、日本人女性はサービスが行き届いているので現地の人にも、けっこう人気があるんですよ」
複数の睡眠薬を使い分けか?
東日本大震災が起きた11年3月以降、海外に渡る女性が急増したという。
「震災後、日本の繁華街から人が消え、女の子たちも仕事が減ったんでしょう。募集をかけたら、かなりの人数が集まりました。その応募してきた女性たちの中に、件の"アイコ似の女"がいたんです」(前出・A氏)
だが、その彼女が偽名を使っていたことが判明する。
「偽名だったことは、ビザを取るために彼女のパスポートを見て気づきました。最初にこちらに伝えていた名前と違ったのです。結局、彼女は渡航先でトラブルを起こし、それ以来、一度も会っていません。当時、品川区内のアパートに住んでいましたけど……」(前同)
その彼女の居住地は、昏睡強盗被害が続発する地域内だったことになる。
「犯人の女が犯行を繰り返す地域を考えると、かつて山手線の西側周辺に住み、そのあたりに土地勘のあることが考えられます。ただし、もう犯人の"ヤサ(自宅)"はそこにはないと思います。犯罪者は、土地勘のある地域で犯罪を起こしつつ、そこに住んでいては危ないという独特の嗅覚が働くからです」(前出・北芝氏)
A氏は、アイコ似の女性について、「顔もそうなんですけど、防犯カメラに映った動きや雰囲気がそっくり。仕事で行っていたため、アジア地域には、かなり土地勘もありますから、国外に逃げるのも簡単でしょう」と言う。
ただし、A氏がアイコに似ているという女性は160センチ超の身長があったという。
警視庁が公表している犯人像の「155センチくらい」より、少し高い点が気になるところだが……。
はたして「アイコ」とはどんな女なのかその謎は深まるばかりだ。
最後に北芝氏が犯人像をこう推理してくれた。
「犯行の手口を見ると、状況に応じて複数の睡眠薬を使い分けているようです。彼女自身、過去に睡眠薬を飲まされた経験があるからこそ、その効き方を熟知しているとも考えられます。六本木あたりでは若い女性が睡眠薬を飲まされ、男たちの性の餌食になっている例もあります。犯人の動機は、男たちへのリベンジなのではないでしょうか」
これ以上の被害を防ぐためにも、一刻も早い逮捕を待ちたい。