「アジア回帰」を外交の新たな目標に掲げたオバマ米大統領が、最終仕上げに向けて動き出した。
4月23日の訪日から始まる、韓国、マレーシア、フィリピンのアジア4か国歴訪のことである。
「その第一の目的は、横暴を極める覇権国家・中国の封じ込めであることは言うまでもありません」(外務省関係者)
一見、日米の強固な絆を再確認するかのようにも見えるが、真相は正反対だ。
現在、安倍首相に対するオバマ大統領の不信感は爆発寸前だという。
「安倍政権に、本気で刺客を放つ決意をしたとの情報も流れています」と物騒なことを言うのは、『永田町抹殺指令』の著者でもあるジャーナリストの鈴木文矢氏だ。
続けて、「もちろん、刺客といってもゴルゴ13のようなヒットマンを差し向けてくるわけではありません。政権を転覆させる、さまざまな工作を仕掛けてくるのです」
日米首脳会談こそ、安倍政権にとって、最後の審判が下される場になるという。
その判断材料となるのが、日米間最大の懸案であるTPP(環太平洋経済連携協定)交渉だ。
「オバマ大統領にとって、今回の来日目的は、日本から最大限の譲歩を引き出すことです」(鈴木氏)
というのも、今秋11月、オバマ第2期政権への評価が下される中間選挙があるためだ。それに向けてオバマ大統領はTPPで成果を勝ち取り、国内票、特に大票田の農業票獲得につなげる絶対命題があるのだ。
国際問題評論家の小関哲哉氏が言う。
「昨年4月にスタートしたオバマ大統領肝煎りの国民皆保険制度は、開始早々からつまずいてしまいましたし、昨夏のシリアへの武力介入も、結局は尻すぼみ。現在、内政、外政とも窮地に陥っています」
それゆえ、ここでどうしても"なんらかの成果"を上げなくてはならない事情があるというのだ。
「なんとか日本を言いなりにさせようと、オバマ訪日を巡る駆け引きでは、外交常識から大きく外れたハチャメチャな手法が用いられました」(外務省関係者)
その典型が、訪日スケジュールをギリギリまで開示しなかったことだ。
「困り果てた安倍首相が頭を下げてくるのを待ち、TPP交渉を優位に運ぼうとする、あざとい狙いが見え見えでした」(前同)
ホワイトハウスが、オバマ大統領のアジア歴訪を正式に発表したのは、今年の2月12日。
この日から、日本への嫌がらせは始まったという。
「まずは、国賓待遇での接待を予定していた日本側を、あえて困らせるかのように日本滞在を1泊2日と発表。国賓待遇の場合は宮中行事があるため、最低でも2泊3日は必要と知ったうえでの"嫌がらせ"でした」(全国紙官邸担当記者)
これだけではない。
「ホワイトハウスは、最終訪日日程(4月23日夜に来日。翌24日、日米首脳会談。同日夜、宮中晩餐会(ばんさんかい)。25日朝に離日)を、先日ようやく発表しました。でも、まだ悪あがきをしています」(自民党外交部の中堅議員)
当初、来日した23日夜に安倍首相主催の夕食会が予定されていたのだが、「それをも"安倍首相がTPPで譲歩するなら参加してやる。ダメなら……"と言わんばかりにゴネ続けたんです」(前同)
安倍ニッポンは"重要5項目"(米、麦、牛肉・豚肉、乳製品、砂糖)の関税撤廃は、絶対受け入れないという方針。
一方のオバマ米国は「原則として、すべての分野における関税撤廃」を掲げ、両者、一歩も譲らぬガチンコ勝負を展開していた。
らちが明かないと見た安倍首相は、日米TPP交渉に先駆けて日豪2国間でEPA(経済連携協定)を開始。
牛肉の関税を、今後15~18年間で現在の約半分に引き下げる(38・5%から19・25%へ)ことで合意した。
「安倍首相は、この合意をもとに日米間の最大眼目だった牛肉問題を解決しようとしました。ですが、オバマ米国は、逆に1ケタ台前半の関税を提示。それも、20年かけて関税ゼロにせよと強硬に迫りました」(経産省関係者)
聞き入れなければ、80年代に起きた日米自動車摩擦のときと同様のジャパン・バッシング、はたまた、TPPでの「日本排除」まで強く匂わせてきたという。
それにしても、なぜ、ここまでオバマ大統領は安倍首相を嫌うのか。
「もともと、安倍首相とオバマ大統領は水と油。一方がリベラリストだとすれば、かたやウルトラ・ライト。混じり合うはずはなかったんです」(前出・小関氏)
米の冷遇にシリア問題で反撃
日米激突の最初は12年末。
安倍首相は、政権発足直後から再三にわたりオバマ大統領との首脳会談を打診するも、ことごとく無視される。
ようやく実現したのは、それから2か月も経った2月22日だった。
「ところが、オバマ大統領は訪米した安倍首相を空港で迎えなかったばかりか、大統領主催の晩餐会(ばんさんかい)も開かず、共同記者会見も拒否。日本の首相が、これだけ冷遇された例は過去にありません」(前同)
足蹴にされた安倍首相も黙ってはいなかった。
昨年9月、シリア空爆問題を巡って世界中が揺れていた頃のことだ。
「オバマ大統領は、安倍首相に直接電話をかけてきて"同盟国として協力するように"迫ってきたそうです。対して、首相は"国連安保理で議決されれば協力する"と、実現不可能な案で突き放したんです。日本の首脳が"盟主"米国に盾ついた驚きの瞬間でした」(政治評論家・浅川博忠氏)
そうしてこじれた両首脳間に、決定的亀裂が生まれたのは昨年暮れのこと。
安倍首相が「再三の中止要請」を無視して、靖国神社参拝を強行したからだ。
「これにオバマ大統領は激怒しました。というのも、彼は、日本は強く要請(命令)すれば、言うことを聞くパシリぐらいとしか思っていなかったからです。そんなパシリの思わぬ反撃に怒り狂ったホワイトハウスは、"遺憾"とか"懸念"といった外交的字句ではなく、"失望した"と、より強い表現で怒りをあらわにしたんです」(前出・浅川氏)
これ以降も「戦後レジームからの脱却」、つまり、米国追随外交からの独立を目指す安倍首相に対し、米国の"攻撃"は執拗に続く。
「血迷ったのか、オバマ大統領は"日本に核テロのおそれあり"と断じ、日本が保有するプルトニウム300キロの返還を要求しました。また、米国"子飼い"のIMF(国際通貨基金)を通じて"日本の成長率下方修正"と発表させて、アベノミクスに難癖をつけたのには、明らかな悪意を感じます」(前出・経産省関係者)
盗聴情報で安倍の弱点を握る
田中角栄、橋本龍太郎、鳩山由紀夫……実際、これまで米国の虎の尾を踏み、政界から抹殺された歴代首相は数知れない。
田中角栄・元首相は当時、米国と敵対していた旧ソ連のブレジネフ書記長に接近した。
油田開発や北方領土問題の解決が目的だった。
これが米政府の逆鱗(げきりん)に触れた。
"(米国発の)ロッキード事件で刺された"という"陰謀説"も、永田町政治史では定説だ。
安倍首相も今、角栄氏とまったく同じ構図下にあるという。
「ロシアのプーチン大統領に急接近。シベリアの日露共同開発にゴーサインを出し、ゆくゆくはシベリアの天然ガスを輸入したいとの絵図を描いています。こうした安倍首相のスタンスは角さん同様、米国の逆鱗に触れる可能性大です」(ベテラン政治記者)
恐ろしいのは、こうした米国の"抹殺計画"に国内勢力も加担していることだ。
「たとえば外務官僚の中でも出世できるのは親米派閥。米国が圧力をかければ首相の意向など簡単に無視されます。それゆえ政策は滞り、支持率は低下。最終的には、辞任に追い込まれるんです」(前出・鈴木氏)
政権が弱体化したら、スキャンダルでトドメを刺す。
「元CIA職員だったスノーデン氏が、米情報機関の盗聴行為を暴露したように、米国は敵対国も友好国も手当たり次第に盗聴します。こうして各国の大物政治家の弱点を掌握します。狙った政治家を潰そうと思えば、盗聴情報をマスコミに流せばいいんです」(前同)
すでに、その予兆はある。
現在、永田町では"安倍首相の愛人説""昭恵夫人スキャンダル説"など、不穏な噂が飛び交っているのだ。
「米国が本気で潰しにかかれば、安倍首相も過去の政治家と同じく、失脚させられる可能性がある」(同)
生死を分ける日本での首脳会談。その結末は――。