深海に住むためその生態のほとんどが謎に包まれていたダイオウイカ。「ダイオウ(大王)」の名にふさわしくその体長は18メートルにおよぶ世界最大の無脊椎動物で、西洋では船を襲う海の魔物「クラーケン」のモデルでもあった。

その魔物が初めて人前に姿をあらわしたのが2004年のこと。小笠原で国立科学博物館の窪寺博士が、生きたダイオウイカの写真撮影に成功したのだ。そして調査を重ねた結果、ついにダイオウイカが生きて泳ぐ姿をカメラでとらえることに成功する。その様子は2013年にNHKスペシャルで公開され、大きな反響を呼び、国立科学博物館では全長5メートルのダイオウイカを展示する「深海展」が開催。期間中に30万人の入場者を数え、日本中にダイオウイカブームを巻き起こしたのだ。

まさにダイオウイカにとってエポック的な年だったといえる2013年。しかし翌年の2014年、事態は新たな展開を見せ始めた。なんと幻の生物だったダイオウイカが、次々に水揚げされてしまったのだ。

まずは1月4日に富山県で定置網にかかり、1月8日には新潟県で、1月21日に鳥取県で生きたダイオウイカが水揚げされた。続けざまに水揚げされた幻の生物に、多くの注目が集まったが、これだけでは終わらなかった。翌2月10日には新潟県佐渡沖、14日にも同じく佐渡沖、さらに兵庫や山口、なんと東京湾の横須賀でも水揚げされたのだ。今年の1月からこれまでに水揚げされたダイオウイカはなんと17杯。しかも生きた状態で水揚げされたものがほとんどなのである。

さらに4月18日に富山県で水揚げされたダイオウイカにいたっては、なんと地元のスーパー鮮魚売り場で陳列されて主婦たちの人気者に。また水揚げされたダイオウイカを食べてみた漁師もおり、その味は「しょっぱくて美味しくない」と語る始末。もはやダイオウイカは幻の生物ではなくなってしまったのだ……。

ダイオウイカがここまで発見されるようになった理由は、まだはっきりしていない。温暖化で海水温が上昇して南方にいたダイオウイカが北上してきた、と説明する声があるいっぽう、大地震の前兆だとするオカルトまがいの意見もある。ただダイオウイカのみならず同じ深海の生物、リュウグウノツカイも例年にないほどの数が水揚げされていることから考えると、深海でなにか大きな変化が起きているのは間違いないだろう。今後はどのような幻の生物が揚がってくるのか、注目していきたい。

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