殺人、放火、強盗……「凶悪事件」発生率は?

4月となれば入学、就職、異動などで、生活を「新しい場所」で迎える人も多いだろう。新天地には不安はつきもの。というのも、世界有数の治安のよさを誇る安全大国・日本でも、犯罪がないというわけではないからだ。

犯罪の件数自体が減少傾向にあると言われる昨今ではあるが、なるべくなら新生活を治安のいい街で送りたい。誰しも、そう思うことだろう。

では、安全で住みよい街は、どこだろうか? 警察庁の平成25年『犯罪統計資料』から、独自に犯罪発生率を調査したところ、意外な事実が浮き彫りになってきた。読者諸兄の新天地での活躍のために、これからの生活で注意すべきことを洗い直してみたい。

殺人、放火、強盗を含んだ凶悪な犯罪のことを「重要犯罪」と言う。『犯罪統計資料』(平成25年1月~10月)によれば、昨年認知された重要犯罪の件数は、1万2297件となっている。

それだけ多くの事件が起きていながら、殺人や放火など、新聞やテレビで取り上げられた衝撃的なもの以外は、ほとんど我々の記憶に残っていないのではないだろうか。つまり、どんなに強い印象が残った事件でも、その中の1件に過ぎないことを考えると、ニュースになった事件だけでは治安の全体像を窺い知ることはできない。

また、どこの都市の治安が悪いのかを知るには、単純に犯罪件数の多寡だけでは測れない。そこに住んでいたら犯罪に遭遇してしまう確率は、犯罪認知件数を都道府県の人口で割って「発生率」を算出しなければ、わからないのだ。

ここで挙げる表は、それぞれ人口1000人あたりで発生する確率、つまり1000人中で何人がその犯罪に遭っているかを表している。重要犯罪も当然、人口が多いところで起きるため、1300万人を抱える東京の件数が多いのは順当だが、件数最多は大阪で、しかも発生率では、2位以下を大きく引き離して高くなっている。

一方、上位の地方都市に目を向けると、広島、愛媛のような瀬戸内海沿岸部や高知の発生率が高くなっている。いったい、どんな理由があるのだろうか。

刑事事件を専門に扱うアトム法律事務所の代表弁護士・岡野武志氏は、司法の現場で犯罪と向き合ってきた経験から、「地方の場合は、夫婦や恋人、友達同士の暴力事件などが目立っています」と解説する。

記憶に新しいところでは、昨年6月に携帯アプリのLINEに悪口を書かれたという動機で、16歳の少女が仲間と共謀し、元同級生の少女をリンチの末に殺害した「広島LINE殺人事件」なども起きている。

また、地方特有の犯罪に別の側面があることを指摘するのは、犯罪ジャーナリストの丸山佑介氏。
「人口が少ない地域の場合は、身方特有の地域性や密接な人間関係が歪んだことによって引き起こされる事件もあります。最近の例だと、昨年7月の山口連続殺人放火事件などは、近所のトラブルや"いじめ"などが原因で起きた典型例でしょう。地縁の強い集落では、相互監視だけでなく、身内以外と揉め事を起こすと、一族郎党が、その場所にはいられなくなってしまう雰囲気があります。その意識が犯罪の抑止力として働きやすい反面、一度はじけると、極端に猟奇的な事件に発展してしまう傾向があるんです」

では、その一方で人口過密都市部の特徴には、どのようなものがあるのか。
「都市部では、人口が多いだけに顔見知りは少なく、面識がない相手や、人間関係の希薄な相手に対して犯行に及んでしまう。ある意味では、無差別に被害者が選別される。そういった怖さがあります」(前同)

都市部特有の犯罪傾向を踏まえると、発生率だけではなく、殺人、強盗、放火の認知件数でも東京を上回る大阪は、非常に危険な都市ということになる。ほかの犯罪についても同じようなことが言えるのか、さらに検証してみよう。


軽犯罪と侮るな! 「窃盗事件」の場合

窃盗事件といって思いつくのは、昨年9月に起きたタレント・みのもんたの次男で元日本テレビ社員の御法川雄斗容疑者の事件。大物タレントの息子による犯罪を、世間はセンセーショナルな事件として受け止めた。

だが窃盗事件が、これほど世間の注目を集めることは珍しい。というのも、刑法犯認知総数110万1498件の中でも、窃盗の認知件数は82万3838件と、全体の約8割を占めるほど多いからだ。つまり窃盗は、犯罪として最も身近なものなのだ。

この窃盗件数の内訳を、前出の岡野氏は次のように指摘する。
「万引きや自転車窃盗が大半を占める窃盗事件の統計だけでは、単純に治安の悪さは測れません」

窃盗事件のうち、半数近くは自転車窃盗と万引きで占められている。確かに、これをもって治安が悪いとは断言しがたい。

住民の安全を脅かすような窃盗は「重要窃盗」である。これには主に、侵入盗、自動車窃盗、ひったくり、スリといった窃盗犯罪が含まれている。どれも被害金額の大きなものだ。

金額だけではない。重要窃盗は、凶悪犯罪に発展しかねない危険性をはらんでいるのだ。前出・丸山氏は、次のように指摘する。
「自動車窃盗やスリは、個人の窃盗犯ではなくグループで動く凶悪な"強盗犯"。窃盗現場に遭遇した場合、無関係の人間に危害を加えることがあります」

身近でありながら、遭遇したら甚大な被害を被ってしまう重要窃盗。この発生率が最も高いのは大都市ではなく、茨城だった。凶悪犯罪と比べてみると、重要窃盗の発生率の高い都道府県に大都市が少ないことに気がつくだろう。

実際、大都市の中では大阪が比較的高いものの、三重、山梨、岐阜といった、ほかの犯罪で上位に見られない県名が並んでいる。

こうした都道府県が上位にくる背景には、ある共通点が存在するという。
「茨城の水戸や日立製作所のある久慈町といった経済的に潤沢なエリアが狙われています。しかも、これらの犯罪発生エリアは常磐道沿いに集中しているんです。重要窃盗の場合は、集団による大規模なものが多い傾向があります。つまり、窃盗犯は県外から、わざわざ裕福なエリアを訪れてきている可能性が高いんです。必ずしも茨城県内の人間による犯行とは言い切れません」(丸山氏)

この窃盗犯の動きは「ヒットアンドアウェー型」と呼ばれる。愛知、三重、岐阜という隣接した地域が上位に集中しているのも、この犯行形態が要因となっているのだろうか。

しかも発生率の高い都道府県が、高速道路や新幹線などで結ばれているのも気になる。ある捜査関係者からは「交通網が充実した地域は、犯人の足取りを特定するのが難しい」という声も聞こえてくるほどだ。

今年2月の大雪で交通網が寸断されて大都市の物流が途絶えたことを見れば、現在の日本の都市部と地方を結ぶ交通網が、どれだけ密接な発展を遂げているかを逆説的に証明したといえる。

窃盗が生活を脅かす犯罪であることは間違いない。しかも、犯人が他県から流入してくる以上、最も危険なのは大都市部に隣接し、なおかつ交通の利便性が高い地帯と言えるだろう。


か弱き女性を狙う「性犯罪」の多い土地は?

衝撃的かつ凶悪な性犯罪では、昨年10月、元交際相手の女子高生につきまとったうえに殺害した三鷹ストーカー殺人事件の印象は強烈なものだった。

この事件は凶悪犯罪に分類されるが、被害者のヌード写真や卑猥な行為の映像をインターネット上に流出させる「リベンジポルノ」を決行した点では、性犯罪の要素があったとも言えよう。

この事件が起きたのは東京だが、性犯罪の認知件数、発生率は、ともに大阪が上回っていた。そればかりか、大阪は全国でも群を抜いている。

全体的には、3大都市圏が中心ではあるが、四国、九州も上位に。どちらかと言うと西日本に多い。

このような実情を、どのように解釈すればいいのだろうか。
「性犯罪は親告罪です。被害者の女性が警察に届けなければ、成立しません。この申告行為が、女性にとって気軽なはずはありません。つまり女性の側が、ある程度、精神的にタフでないと事件になりづらい犯罪なんです」(岡野氏)

認知件数最多の大阪をはじめとする西日本の女性の気が強いとも解釈できるが、岡野氏は性犯罪の程度にも注目するべきだという。
「罪状としては強姦や強制わいせつとなっている事件でも、実際にはナンパした男性が勢いで行為に及ぼうとしたところ、女性側が拒絶したり、逃げ出したりして、後日、その女性に男性が訴えられてしまうことなども多いようです」

昨年12月には東京・光が丘署の生活安全課長が、知人女性と酒を飲んで帰宅する途中に、無理やり抱きついてキスをし、強制わいせつ容疑で逮捕されている。加害者が警察官であったことでニュース化したが、このような男女の交際のもつれは、日常的に起こり得る話。つまり性犯罪は、加害者と被害者の関係性を個別のケースごとに見る必要があるのだ。
「大都市で性犯罪が多いのは、男女の出会いの場が多いこともあるでしょう。しかも、噂が広まることへの恐怖心が地方より少ない大都市は、人間関係が希薄なまま、社会が成立しているとも言えます」(丸山氏)

つまり、明日は他人の顔をして暮らせる環境なのだ。性犯罪を肯定するわけではないが、一夜限りの関係を求めたら思わぬ事件に発展したケースもあるだろう。

さらに丸山氏は、上位ランクの他県に目を向ければ、また別の発生原因があると指摘する。
「鉄道網が整備された都市で性犯罪の発生件数が多いのは、偶然とは言えないでしょう。"電車=性犯罪"というわけではありませんが、車が交通の主要な足となる地方都市に比べて、不特定多数の男女が一緒に移動することができる電車は、女性が狙われる可能性が高いのかもしれない。しかも飲酒した状態でも乗車可能となれば、犯罪発生率が高くなるというのも十分に想定できます」

このように、性犯罪の場合には、男女が関わりやすい環境を生み出す背景の有無が、発生件数に差をもたらしていると考えられる。その点では、車社会の地方よりも、大都市のほうが危険度は高いと言えるのだ。


発生率から見えてきた! 住んだらヤバいエリアとは?

ここまで凶悪事件、窃盗、性犯罪と、日々の生活を脅かす危険な犯罪の発生率について見てきたが、データの基本となっている『犯罪統計資料』が発表された昨年1月~10月の段階では、すべての刑法犯の総数で突出した数値を叩き出しているのは大阪だった。次いで福岡、愛知となっている。関東では千葉が最も高く、東京は6位に留まっている。

上位3県は、今回取り上げた「凶悪犯罪」「窃盗」「性犯罪」のすべての分類で10位以内という結果だった。

あくまで発生率から見た位置づけではあるが、犯罪に遭うかもしれないという危機感においては、かなり用心しなければいけないエリアと言えるだろう。

一方で、気になるのは東京の意外性だ。東京は1300万人もの人口を抱え、最も多様な人間が集まる首都であるにもかかわらず、犯罪発生率は大阪よりも、かなり少ない。

犯罪を取り締まる警察に、東京と大阪とで何か特別な違いはあるのだろうか?

丸山氏は「東京が犯罪を押さえつけているのかもしれない」と指摘する。というのも、東京都民にしてみれば違和感のないことも、他県の人から見れば奇異に映る事象が多々あるというのだ。
「キャッチがダメ、飲食店の営業時間が規制されていることなどに加えて、ストップ・アンド・フリスクが異常に多い」(丸山氏)

不審な通行人を呼び止めて尋問すると言うアメリカの職務質問のことを"ストップ・アンド・フリスク"と言う。アメリカでは白人の警察官による人種差別が問題になっており、その意義には賛否両論があるが、日本では、警察官の主観による職務質問の件数が非常に多く、安全の確保にひと役買っていると言うのだ。

一方、大都市で進む取締りの強化が犯罪防止の措置だとすると、今後予想されるのは、犯罪地域の拡大だ。
「重要窃盗が大都市近郊の地方都市で多くなっているように、大都市に潜む犯罪者が、比較的規制の厳しくない地帯へ足を伸ばすことも考えられます」(前同)

東京、大阪の隣県が上位を占めているのも、この徴候ではないかと言う。

リニア新幹線の開発や北陸新幹線開通、また高速道路網の発達など、日本国内は確実に狭く近くなっている。こうした状況のなかで人が動けば、いままで発生率の低かった地域へと拡大していく可能性は大いにある。大都市圏はもちろん注意が必要だが、どこの地域に住んでいても、警戒を怠ってはいけないのだ。 


最も「住みやすい」都道府県はどこ?

犯罪発生率を逆から見た場合、日本全国で最も住みやすい街も導き出すことができるだろう。あくまで犯罪発生率ベースなので、居住環境として、すべてが快適というわけにはいかないだろうが、セキュリティーの意識が高い人にとっては、それが重要な要素となる。

まず、殺人などの凶悪犯罪は、秋田と宮崎が発生率の低さで拮抗している。次に重窃盗は、青森が群を抜いて低いが、それ以外の地域は山形、秋田、岩手の東北勢に、長崎といった具合だ。性犯罪は秋田、青森、大分の順で低い。

すべての刑法犯総数の発生率でも低いエリアでも、秋田、岩手、青森の東北勢が独占。全体的に、東北地方や九州の中心地から離れた地域が、治安がいいという結果になった。この点は犯罪検挙率の数値を見ても明らかだろう。

どうしても犯罪が怖いという人にとって、これらの地域が、最も住みよいエリアだと言えるだろう。繰り返しになるが、これはあくまで対犯罪である。実際の住環境については考慮していないので、そのあたりは自己責任で選択してもらいたい。

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