世界が感動した日本の”我慢・忍耐・礼節”の美学の根源を探る勉強会に夢中!


日本映画界での功績と数多くの文化貢献により、旭日小綬章の受賞が話題となったばかりの津川さん。プライベートではいったいどんな素顔をお持ちなのでしょうか?
今、一番興味深く、ハマっていらっしゃることについて伺ってみました。


今、ハマっていることっていったらね、”勉強会”ですね。
美を探る会って書いて『探美会』っていう会なんだけれども、映画・芸能関係者を中心に、メンバー数は100人くらいかな。その中から常時40人くらいが参加してる。
なんでその勉強会を始めたかっていうとね、3/11のあの震災のあと、日本人の”我慢・忍耐・礼節”に世界が感動したでしょ。救援物資が届けば整然と列をなして感謝の心で受け取り、みんなに行きわたるように心を配り、当番を決めて避難所のトイレ掃除をしていた。
この美意識はいったいどこからくるのか、と外国人に聞かれたときにきちんと答えられるのか、という疑問がきっかけになったんだ。
勉強会とはいっても、”日本の文化”をテーマにメシ食いながら遊ぶ、といった感じだけどね。
いろいろと親交が深い安倍さんに顧問をやってもらっている。
総理になってからはなかなか忙しくて、常に参加、というわけにはいかなくなってしまったけれど、新年会には顔を見せてくれたよ。彼も映画が大好きで、日本の文化・美、そういったことが好きな人だから。きっと、楽しんでくれているんだと思う。
日本の政治家は特に文化をおろそかにしてきたきらいがあるから、ぜひ政治が文化を推進する、という流れに協力してもらいたいものだね。

総理も参加されているんですね。安倍さんの著書などからもそういった日本の文化に造詣が深く、また大切に思っていらっしゃることがわかるので納得です。
“日本の文化”といってもいろいろあると思うのですが、今までで一番盛り上がったのは
どんなテーマだったのでしょうか?


それはもう”縄文”だね! 縄文時代に日本の文化のすべての鍵があるんだ。縄文をしっかり勉強すれば日本のあらゆる文化の謎がとける!と、すごく興奮してたね。
たとえば、日本の美意識の原点は”精霊信仰”のなかにある。
大自然・大宇宙のなかに生きとし生けるもの、すべてに神が宿る、といった考え方だ。
もちろん日本だけでなくアジアにもある考え方なんだけど、これを「命の平等」という思想にまで高めていったのは日本独自の文化だろうね。
 
津川

他の国の多くは、自然というものは人間のためにある、したがって“自然は克服すべきものである”という発想なんだ。
精霊信仰は、というと、”自然の脅威も含めてすべて命であり、畏敬する”、それがたとえ災害であっても受け入れる。自然を敬い、畏れ、愛するというふうにすべてを受け入れてきた。
信じるも信じないも神はそこにただ”在る”という発想。最初に宇宙があり、そこに八百万の神がいる。
精霊信仰は西洋からはアニミズム(動物的・原始的)とも呼ばれていたんだけれど、
いま、そんな軽蔑にも似た感覚に変化が起こりつつあるんだ。
富士山を自然遺産ではなく文化遺産にしたでしょ。これはものすごい意義あること。
富士山だけならば自然遺産であるけれど、これに、エルサレムと同じく”聖地”という名を冠した。エルサレムと同じく富士山も聖地であると世界が認めたんだね。
こんなふうに、世界のハイインテリジェンスを持った人たちが日本の精霊信仰、ひいては日本の文化を見直す流れが起きているんだよ。

なるほど! 縄文時代といえば、縄文土器と原人しか出てこない私にもすごくわかりやすく、そして大変に興味深いお話です。日本の文化が世界にも広く受け入れられてきている、ということなのでしょうか。

そうだろうね。海外でも評価の高い日本のアニメもアニミズムから始まっているんだ。
日本の漫画の原点、根本にあるのは”命の平等”。猿も蛙も、ウサギも人間と同じく平等の命である、というね。それを絵にしたものが「鳥獣戯画」。こうした遊びのある戯画の世界が町人漫画となり、北斎漫画となり、現代に入って手塚治虫、宮崎駿の作品になって世界に浸透してきている。日本の文化である”命の平等”、”自然信仰”という深い思想が、日本の漫画文化には深く根付いているんだ。キティちゃんだって可愛いだけじゃない。可愛いというのは美しいということ。その“命の平等”という美意識がいま、世界で人気を博しているんだと思うよ。
日本には15000年の歴史がありますから。美意識も深い。だけど、その15000年を1年間に換算してみると、明治維新から今日までは、12月25日からのたった数日間でしかない。
その日本の長い歴史・神話、ひいては宗教を勉強しないでどうする、っていうことですよ。

そういった、世界が注目しているという独自性の高い文化や宗教観はどうやって生まれてきたのでしょうか?

日本人は、クリスマスにはサンタクロース、お正月に神社、お盆になったらお墓参りして、法事ではお寺に行ったりするでしょ。結婚式は教会でしていたりね。
ありがたいと思うものにはみんな手を合わせる。
すべてがありがたいんだから、という発想。
これはもう何かを信じる信じないということではなくて、サムシンググレイト、
”偉大ななにか”に対する信仰であり、この世に起きる事象のすべてを受け入れているんだ。
何でも受け入れることの懐の大きさ。これは日本独自のものだろうね。
生きとし生けるものの”命”というものは、どんな科学者でもつくりだすことは出来ないんだよ。それは世界有数の科学者ですら認めていることで、世界で初めてDNAの模型をつくった生物科学者の村上和雄先生が「DNAのしくみは解明されつつあり、読むことは出来るようになったけれど、今の科学では、新しく細胞をつくることは出来ないし、大腸菌1個すらつくることができない。」とおっしゃってる。
現代科学をもってしても、DNAのクローンは出来ても、新しく「命」をつくることは出来ないんだと。
ひとつの命が生まれる。細胞が分裂し、人としてこの世に生まれる。
そんなすごいものをつくったひとはいったい誰なんだ!?
それは何か偉大なものの存在、”サムシンググレイト”でしかない。
DNAを読む人より作った存在のほうがすごいだろう、と村上先生はおっしゃってらした。
それは偉大な力であり、そこに神というものが存在するのだろう、と。

本当にすごいことですよね。
そういった”サムシンググレイト”、という存在を古くから受け入れてきた日本が、これから世界で果たす役割は大きいのでしょうね。


そうだね。その村上先生と友人でもあるダライ・ラマ氏は「21世紀は日本の世紀です」とおしゃったそうで、先日、アメリカの国会で「この大自然の生きとし生けるものすべてに幸せがありますように」と。
自然信仰の思想を、仏教の宗主がキリスト教の聖地アメリカで祈られた。
日本の自然信仰から生まれた美意識のなかに世界の幸せがある、それが彼が「21世紀は日本の世紀だ」といったことなんだな、と僕は思って感動した。

リーマンショックや3.11の震災でいろいろなものを失った日本人。家族の幸せのために築いてきたものがすべてなくなった、家族や自分の命すら危ぶまれる、と思われたとき、それでも”我慢・忍耐・礼節”をもって身を寄せ合って生きている姿を世界が目の当たりにした。
そういう日本人の姿を見て、世界中の人の意識が変わっていった。
本物の幸せはお金やモノではなく、そういった美意識に基づく思想の中にあるんじゃないかと。いまや世界中がそういった美意識に期待を持ち、思考の転換をはかってきている。
自然は克服すべきものではなく、受け入れ、敬うものだ、という方向になってきている。
その美意識はどこから来たかといえば、日本古来からの自然信仰が生み出したものと、みんな自覚し始めているんだろうね。
日本は経済大国でもあるけれど、それに加えて世界のリーダーシップを取り得る文化大国であるということが、勉強会をやっていてわかった。

戦後にしても、3.11の大震災にしても、日本人の立ち直る力、というパワーをすごく感じますね。戦後の日本の経済・文化の復興と発展はどのような国民性や風土から生まれたのでしょうか?

日本の維新は今から140年前。当時6000万の民がたった140年で世界に名だたる経済国家・文化大国になった。なぜそんな驚異的な成長が可能だったのか。
アメリカが多民族国家であるというけれど、実際には日本人はそれを上回る多民族国家、といった側面があると思うんだ。古来から考えていけば、本当にいろいろな血が混ざっている。
日本は世界の果てにあり、南からも北からもいろいろな人種が日本へやってきて留まって、
人種のるつぼになっていた。
DNAの人類学という視点でみれば、僕は日本人が一番雑多な民族性があると思う。
だからあらゆることを受け入れて自分流にしてしまうんだろう。
漢字が入ってくれば平仮名をつくり、西洋の食文化が入ってくれば、すき焼きや天ぷらをつくり、食だけではなく工業・技術の面でもそうやって進化してきた。
今では世界中で、日本の部品を使わなければならない精密機器がたくさんある。日本の中小企業の工場は、世界に誇れる技術力を持っていることでも有名だからね。

僕は、本当にインテリジェンスのある人は、なんでも受け入れる柔軟な人のことだと思うんだよ。経営者や上司だってそう。あれもダメ、これもダメ、と言っていたのでは人は伸びないし、ついてこない。
あらゆる英知はヒトの意見を取り入れることで生まれるんだ。
日本人は、本来そういった柔軟性を持っている。どうしてその柔軟性を持ち得たかというと、古来からたくさんの雑多な血が混ざりあい生きてきた民族だからだと思う。
四季の美しさ、自然の恵みを享受できる土地に生まれたことで、そういった精神性が培われたんだろう。
寒さや暑さの厳しい土地は、常に自然と戦い
克服しなければならない文化になっていく。
僕は、日本人として生まれたことよりも、この日本の土地、この風土に生まれたことを感謝したいと思う。それがこの、日本という国を愛することにも繋がっていくからね。
日本の文化は、あらゆる四季の美しさ、自然の恵みを十分受け取れる土壌があって生まれたもの。この土地に、この場所に生まれさせて頂いてありがとう、という感謝の心が愛国心だと思う。

でもまあ、最近では、東京では災害時にペットボトルを買占めたり、嫌なニュースを耳にすることも多くなったね。日本人であるというアイデンティティをなくしている人が多いように思う。寂しいね。向こう三軒両隣、そういったコミュニティでのつながり、人の輪、そのなかにある情、そこから生まれる仁義、そういったものを大切にしたいよね。
僕ら老人はね、老いたものの役目として、そういった日本人の心情を、今の若い人たちに
伝えなけらばならないと思う。

日本人の寿命は昔と比べても格段に伸びていますよね。
津川さんにも、今後もたくさんの映画や作品、講演などを通して若い世代に
大切なことを教えていっていただけたら、と思います!


いやいや(笑)、『ゾウの時間、ネズミの時間』っていうベストセラーの本の著者、本川達雄さんの『「長生き」は地球を滅ぼす』という御本の中で、「人の役に立たないのならば、死んだ方が地球のためだ」っていう内容でね。
人間もゾウもネズミも等しく10億回心臓が鼓動を打ったら死ぬと書いてらっしゃる。命は平等。ところが人間だけが違う。余計なエネルギーを使って寿命が延びたことで、今70億の人が地球上にあふれている。アフリカでは月に7000人赤ちゃんが死んでいるというのに。
そういった中で人の役に立たないのならば、死んだほうがいいというのは僕も共感した。
シビアだけどね。
10億回の鼓動、という命の平等を越えてしまったら、老人は生きてる間は役にたたなけりゃいけないんだよ。そうでないならば長生きしたって仕方がない。
あの、国を想い、家族を想い、若くして死んでいった特攻隊のことを思えば、いまはみんなが“死ぬこと”を怖がり過ぎている。
すべてはサムシンググレイトが決めること。この世は仮の世。修行の場。本来、魂が返る場所があるんだから。かぐや姫の話のようにね。

10億回の鼓動ですか…。その鼓動を刻む間、若い人はもちろん、経験値のある年配の方も、一生懸命に人の役にたつような生き方をしなくてはならないのですね。

“死”は不条理でも不益でもない。10億回の鼓動を打った老人なら、死ぬことを恐れてはいけない。もし元気で生きているのなら、世の中のため、若い人たちの未来のためにならなければいけない。これが僕の最近の持論だね。

全部とは言わないけれど、魂を奪われてしまったようなマスコミの人たちも多いからね。
そういう人たちが情報を流し、世の中を動かしている。こういった劣悪な環境のなかでも高い志を持って生きていくことはとても厳しい。秘密保護法案に対する過剰な反応を見てもマスコミ、映画界もまだまだ成長しなければならないと思うよ。
ハリウッド映画を始め、アメリカで面白い映画が出来るのは、いろいろな問題を自由に題材に出来るからなんだ。エンタテインメントの映画にオバマ大統領が出演したりするしね。日本ももう少し自由に映画づくりが出来たらいいと思うけどね。

本当に知りたい、知っておくべき情報が入ってきづらい状態にはなってきていますよね。
だからこそ自分自身で積極的に情報を得て、学ぶ手段を考えなければいけないな、と思いますね。


そうだね。いまは、インターネットでもなんでも使って自主的に勉強しない人はどんどん遅れていってしまう。昔は、”教育”ということそのものが素晴らしかった。
教える人の人格に尊敬の念を持つことが出来たからこそ教育というものが素晴らしい成果をあげてきた。教育というのは、かたちを変えた”愛情”だよ。
今は人格者どころか、排除しないといけないような教育者が多すぎるし、教育のレベルにバラつきがある。これをなんとか統一させないといけない。
学ぶ側も自らの力で知識を得て、立ち直らなければならないし
教育に関わる人たちもそういった認識をきちんとしていくべきだね。

津川さん、今日は長時間に渡って貴重なお話をして頂き、本当にありがとうございました。最後になりましたが、これから若い世代に向かって残したいことについて、教えて頂ければ、と思います。

残したいか。残したいものは無いなあ(笑)。残すパワーもないしねえ。
むしろ想いを伝えたい、ということはある。僕が学んだことや思ったことをなるべく多くの、特に若い世代の人たちに伝えていきたい。だから、インタビューや講演会、勉強会はとても楽しくて、長く話していられるから嬉しいんだ。伝えたい、という僕の欲と一致するからね。

勉強会ももうすぐ30回近くになるけど、こうして年をとってから勉強すると、なにがいいかって、いいとこどり出来るところだね。経験値に基づいた勘で学べるようになる。
俳優さん、監督、脚本家、プロデューサーが参加者なんだけれども、若いコだと19歳の女優さんなんかも来るよ。僕自身、まだまだ、学びたいことはたくさんあるから、これからもいろいろなことを吸収して、多くのひとたちに伝えていけたらと思っているよ。

~日刊大衆取材班より~
まさに、取材翌日の朝に”津川さん旭日小綬章受賞”のBIG NEWSが!
日本人としての魂や美学を尊び、国を愛する心を持っている津川さんだからこその御受賞、心からお祝い申し上げます。穏やかな語り口で、面白く、ためになる勉強会のお話をしてくださった津川さん。取材なのに心温まる講義を受けたようで、しばらく勉強から遠ざかっていた取材班には新鮮な体験でした。それにしても、取材現場に現れた津川さんのフレッシュで若々しいファッション、とっても素敵でした。帰りがけに「カッコいいお靴ですね!」と思わず声をお掛けしたら「大切な仲間からもらったんだよ」と嬉しそうに笑っていらしたけれど、あれはきっと世界のセレブが愛用するクリスチャン・ルブタンのスタッズシューズ! さすがの津川様、オシャレ過ぎデス♪
 

津川 雅彦(つがわ まさひこ)PROFILE
1940年京都府京都市生まれ。監督名はマキノ雅彦。
芸能一家に生まれ、子役として活動後、1956年、日活映画「狂った果実」で本格的に銀幕デビュー。ジャーナリストをめざし早稲田学院に在籍していたが、日活の人気スターとなり、俳優として活動。フリーに転身後もTVドラマや映画などで活躍、1982年「マノン」でブルーリボン賞助演男優賞受賞。伊丹十三監督作品への出演やジェームズ三木脚本の作品にて三英傑すべてを演じるなど、俳優としての評価を高めた。
2014年4月、日本映画界での功績と数多くの文化貢献により、旭日小綬章を受賞。

本日の新着記事を読む