日本人男性の平均寿命79・94歳は世界5位、女性は86・41歳と世界1位。
さらに、100歳以上の高齢者は約5万人――。

世界でもトップクラスの平均寿命を誇る、わが日本。
発達した医療や生活環境によって、この数字が生まれたのだが、誰もが長生きできるわけではないのも真実。

また、長生きしているとはいえ、必ずしも健康な生活を送れるわけでもない。
「定年までがむしゃらに働き、会社を退職して第二の人生を謳歌(おうか)しようと思った途端、病気になってしまうケースがあります」

こう語るのは、『健康寿命をとことん延ばす-「食」の決めワザ100』(宝島社新書)の著書がある永山久夫氏だ。

永山氏は、ただ長生きするのではなく、健康な体でカッコよく生きる"クール長寿"を訴え、長生きのご老人が多い"長寿村"を調査し続けている。

「そうした地域では、90代でも元気な高齢者をよく見かけますが、話を聞いていくと、その秘訣は食生活にあるようです。それを参考にすることで、100歳まで生きることは十分可能だと思います」(前同)

厚生労働省の最新の調査(平成22年)によると、男女ともに日本一の長寿県が長野県である。

5年ごとに行われるこの調査で、長野県の女性が日本一になったのは今回が初めてだが、男性に限ると、平成7年から日本一を連続キープしている。

そこで、その食生活を、長野県健康増進課に尋ねると、昔から長寿県というわけではなかったという。

特に昭和30年代以前は、長野県民の脳卒中による死亡者が、全国平均を大きく上回っていたそうだ。

「そこで、県として昭和40年代から脳卒中を減らす取り組みを行いました。そのひとつが、脳卒中の原因である塩分過多の解消。減塩運動を推進し、県内で消費が多い漬物に使用する塩の量を減らしてもらったり、漬け方の工夫をしてもらいました」(同県健康増進課)

こうした改善策も効き、長野は平均寿命で全国一に、さらに県北部の松川村が平均寿命82・2歳(平成22年)で日本一の長寿村となった。

一方、長野に首位の座を奪われる前に長寿県として名を馳せたのが、沖縄県。

昭和60年には日本一だったものの、現在の男性の平均寿命は順位を大きく落とし、最新の調査では30位にまで落ち込んでいる。

その理由について、琉球大学名誉教授の平良一彦氏が次のように解説する。

「アメリカに占領された際、伝統的な食生活から欧米スタイルの食事様式に変化。それが原因で、30代、40代を中心に健康問題を抱える人が多いんですが、従来の食生活を守る65歳以上の人に限れば健康な方が多いんです」

つまり、沖縄や長野の例を鑑みると、長生きか否かの分かれ目が食生活にある可能性が高いのだ。

では、こうした長寿県の人たちは、どのような食生活を送っているのか。
まず、平良氏が沖縄の食事には「良質なタンパク質やミネラル、ビタミンが多い」と、その秘密を明かす。

「その代表が豚肉です。14世紀に中国から当時の琉球王朝へもたらされ、それ以来の伝統で、骨から内臓まで、すべての部位を調理して食べる文化があります」

沖縄で「肉」と言えば「豚」のことを指すほどで、「小さい頃、冷蔵庫には豚の顔の皮(沖縄ではチラガーと言う)が当たり前に入っていました。これはコラーゲンたっぷりの食材。さらに、疲れたときには豚の肝臓をニンニクやタマネギと合わせて食べていましたし、豚肉を茹でた際に出た油も食用油としても使うんです。とにかく豚は残す部位がなく、バランスよく栄養を得ることができるんです」(前同)

また、豚肉同様に沖縄で消費量が多いのが、昆布だ。

実は同県では昆布が収穫できないのだが、消費量は日本有数。
前述の豚肉や他の食材と炒めたり煮たりして食すなど、さまざまな料理にその出汁を使うのだ。

「昆布も含め、ミネラル豊富な海藻(上の表参照)をたくさん食べるのも沖縄の伝統食の特徴です」(同)


陽気な県民性にも食事が関係

前出・永山氏は、かつお節も重要だと話す。
「沖縄の人は陽気で、すぐに踊り出すでしょ。実は、これも食文化に関係しているんです。陽気になるのはセロトニンという脳内物質が分泌されるからで、その素となるトリプトファンが凝縮されたような料理が『カチューユ』です」このカチューユは、料理経験の少ない中高年男性でも作れるほど、レシピは超シンプル。なんと、かつお節にお湯を注ぐだけ。

「最近では、躁うつ病による自殺者が問題になっていますが、トリプトファンを多く摂ると、プラス思考で物事を考えることができるようになります」(前同)

意外や意外、かつお節と陽気な沖縄の県民性には、こんな関係があったのだ。

一方、「減塩運動」を進めてきた長野でも、健康や長寿に大きく寄与する地元の食材がある。

「生産量が日本一のくるみは、血管の老化を防ぐα-リノレン酸が多く含まれていますし、信州名産のそばには、疲労回復や生活習慣病予防効果が期待されるんです」(地元の栄養士)

こうしてみると、新旧の長寿県それぞれの食生活が長生きや健康に結びついていることがわかる。

さらに探っていくと、両県には共通する食様式があるというのだ。

「野菜の消費量と"味噌汁好き"の県民性です。しかも、長野産と沖縄産の野菜には、抗酸化成分であるポリフェノールが含まれていますよ」(永山氏)

この抗酸化作用こそが"長寿の秘訣"だと本誌の取材に識者は口を揃えたが、これはいったい、どういうものなのか。

「人間の体は、加齢とともに徐々に"錆び"ついていきます。その結果、皺(しわ)ができたり、体にガタが来たりと老化が進みますが、そうした体の錆びつきを防ぐのが抗酸化作用なんです」(前出・栄養士)


長寿を導く"究極の食事"!

ポリフェノールを多く含有する、長野と沖縄の野菜。
なぜこの両県産の野菜が!?

永山氏の解説を聞こう。
「長野は平均して標高が高く、一方の沖縄は日照時間が長いうえに日差しが厳しいことから、両県で育つ野菜は、他県に比べて大量の紫外線を浴びるんです。こうした野菜は、紫外線に耐えようとして野菜自身が抗酸化作用を強めます。それを食べることで、人間の体内でも抗酸化力が高まるんです」

味噌汁も、抗酸化作用と結びつきが強い。
みその原料・大豆に含まれるイソフラボンには、体の酸化を防ぐ効果があるという。
そのため、永山氏が「長寿を導く究極の食事」と推すのが、長野・沖縄産野菜を使った味噌汁だという。

「大豆イソフラボンと紫外線を浴びた野菜の両方の抗酸化効果を期待できます」ちなみに、味噌汁と言うと塩分が気になる人も多いかもしれないが、「野菜には多くのカリウムが含まれ、食塩を構成するナトリウムの吸収を制御するため、塩分吸収も押さえられるんです」(前同)
まさに究極の長寿食。

同時に、愛知県と静岡県には、健康で長生きできる"クール長寿"の秘訣が隠されているという。
「厚生労働省は、一昨年から『健康寿命ランキング』を公表し始めました。健康寿命とは、寿命から、日常生活に制限のある"不健康な期間"を抜かした期間のこと。つまり、健康な期間はどれくらいかということです。このランキングでトップに立ったのが、愛知県(男性)と静岡県(女性)でした」(全国紙文化部記者)

愛知県の男性は平均71・7歳まで、静岡県の女性は75・32歳まで健康な生活を送っている。
東海2県の住人は、なぜ快適な人生を謳歌できるのか。

ある"飲み物"のおかげだろうと永山氏は言う。
「静岡が消費量トップで、愛知でも多く飲まれている緑茶のカテキンにも抗酸化成分が含まれているんです。ただ、体内では、その作用は2時間程度しか持続しません。そのため、3回の食事とその間食でお茶を飲む古来の習慣は、カテキンを2時間おきに摂取できる、昔の人の知恵なんですよ」

やはり、長寿とともに健康への近道は抗酸化作用にあるようだ。間食の際、お茶と一緒にくるみを使った餅やおはぎを食べると、α-リノレン酸とのダブルの効果が期待できそうだ。

「ある長寿村の男性が言っていました。"健康に100歳まで生き、3日間だけ病気になる。その3日の間に家族へ感謝の気持ちを述べ、安らかに、この世を去りたい"と。そんな理想的な人生を、皆さんも送ることができますよ」(前同)

すぐにでも日常生活に取り入れ、健康で明るい"クール高齢者"を目指そうではありませんか。

本日の新着記事を読む