私もそろそろ幸せになりたい(笑)!
大事な家族と一緒にいるために、私が休むのが一番合理的なんです
―西原理恵子さん―



売れっ子漫画家として、また強き母として活躍し、近年では高須クリニック院長との微笑ましい交際も話題の西原さん。お忙しい毎日かとは思いますが、現在もっとも充実している、と感じる余暇の過ごし方を教えてください!

余暇は大事ですよね。いま、私めずらしく仕事をセーブしてるんですよ。
人生初かもしれない。仕事量を控えようとするなんて今までの私にはありえないことでしたから。なんでそんなありえないことをしているかというと、私自身と、私にとって大事な存在である家族、彼氏、そして犬、全員にとって“幸せ”な状況をつくることを考えたら、いま、私が仕事を控えて彼らと一緒に過ごせる時間をつくることが一番合理的なんですね。

仕事する私を支えて、料理も育児も手伝ってくれている母は、ありがたいことに健在ではあるけれどもう81歳ですし、来年カリフォルニアに留学予定の息子や年頃の娘が巣立ってしまうまでの時間ももう本当に残り少ないんです。
女として考えれば、彼氏の高須さん(※高須クリニック代表の高須克弥さん)ももう70歳、これからもまだまだ世界中をふたりで旅したいですし、彼と一緒に過ごす時間も大切!

最近はお酒も控えるようになりました。午前中を有効に使えれば少しでも子どもたちとの時間を増やせるんじゃないかと思って。
ちょっと前までは記憶がなくなるまでの二日酔いで午前中まるで使い物にならなかったけれど、今は朝7時に起きてお弁当とごはんの支度をして子供たちを送り出してますよ。その後また寝たりもしますけどね(笑)
酔っぱらって記憶なくしてる時間って無駄でしょ? ひとりで焼酎片手に深夜まで飲んでたってねえ、翌日の午前中使えなくなっちゃうもの。
人生この先そんなに長々と続くわけじゃないし、私にとって本当に大切な、愛すべき存在である彼らと過ごす時間を大切にしたい、という強い思いがありますね。

なるほど。先生もやっと人間らしい暮らしになったんですね(笑)! ですがこれだけ長年走り続けてきた西原先生ですから、抱えている連載の量も多いでしょうし、なぜそこまでガラっと人生の方向転換をする気持ちになったんでしょうか?

抱え過ぎていた連載の仕事もちょっとづつ整理してますよ。あ、でも書く量減らす分、受ける連載の価格を倍にして、って値上げ交渉したりしてね(笑)!
まあそれはさておき、博打とか酒とかね…、いろいろと、仏教でやってはいけないとされているコトを一通りやってきたと自負する私が、なにはともあれ、いまやっとそんな境地に達したのは、やはり亡くなった鴨ちゃん(※がん闘病後、亡くなった前夫の鴨志田穣さん)への後悔もあります。
彼が生きて家族とともに過ごせる残り時間は決まっていたのに、その残り少ない時間ですら私は仕事をやめようとは思わず、走り続けてしまった。どうしていいかわからなかったんです。日常をきちんと生きなければいけないと思ってしまっていたし、彼の死が近い、ということをあまり気づかれたくなかったですしね。

だから、いまこうやって、みんなで一緒に過ごせる残された時間を考えて逆算していくと、今って人生のクリスマス休暇みたいなものだと思うんですよ。
私ももう50歳ですし、そろそろ幸せになってもいいのかなって(笑)。
私が健康で、高須さんが健康で、母が健康で、子供たちはニコニコして楽しく学校に通っていて。そんな幸せな状況って人生の中でもなかなかないことじゃないですか。その貴重な時間を大切に味わいたいんです。
時間に余裕がないと、愛する家族や彼氏のために時間が使えない。一緒に過ごすことすら出来ない。それってとてもナンセンスでしょ。だって、時間とお金がなければ犬1匹だって責任を持って飼うことができないんですから。

西原先生のブログにもよく登場している可愛いワンちゃんですよね。
たくさんお散歩させてもらって、すごくかわいがられている様子が伝わってきます!


そうですね。うちで飼っているゴールデンレトリバーは、保健所から引き取って飼ってる犬なんだけど、保健所には飼い主が飼えなくなって捨てられてしまった犬が本当にたくさんいるんですよ。特に大型犬は全く引き取り手がないらしく、 うちも飼ってみてわかったけど、大型犬って、思いのほか時間と家のスペースにゆとりがないと大変なんですよ。1日2時間は犬のために時間をつくってあげなきゃいけない。お散歩につれていったり、ごはんを食べさせたり、洗ってあげたりのケアだったり…。
私も犬を飼ってからは、ダラダラとインターネットみてへらへら笑ってるような時間が減りましたもん(笑)! やっぱり動物と子供の持ってる効果はすごい!!
 


ここらへん東京一帯だけでも、ちょっと不況になると犬猫なんてあっという間に施設行きだし、子どもだってそう。いま、養護施設には親にネグレクトや虐待された子供や金銭的に育てられなくなって預けられている子供もすごく多いと、聞きました。

不況で貧しくなってきたところに病気がからんできたりすると、あっという間にそれまでの幸せを築いていたバランスが崩れちゃう。そこから連鎖するように不幸が始まって…。
貧乏ってすぐそこにあるモノなんです。不幸になるのって本当に簡単なんですよ。特に女の人は。ちょっとしたバランスの崩れで人生が急転直下してしまう。
私、子供の頃からずーーっとそうやって転落してしまう女の不幸をみてきましたし、自分自身でも”不幸の最高値のシミュレーションをし続けてきましたからね。
昔は”女の人は40過ぎたらどんな人にも壮絶な不幸が待ち構えてる”って思い込んでました。
私の子供の頃って、どんな女の人でも40歳過ぎたらみんな不幸のどん底に陥ってたんですよ。美しく年を重ねてる人なんて見たことなかったし、みーんな太って歯が抜けて髪の手入れも出来なくなってヘンなパーマかけて…

いやいや、そんなみんながみんなそんな悲惨な姿になるってことはないですよね(笑)

でも、私の周り近所は本当にそんな感じだったんですよ。今と違って”美しく年を重ねる”なんていうキャッチフレーズはなかったし、お手本になるような女の人はまるでいなかったですね。まず女の人に仕事がなかったから稼ぐことが出来ない。だから私も40歳過ぎたら絶対不幸になる! って思って、その恐怖心から今まで全力で働いて働いて、走り続けて生きてきたんです。でも、実際40歳過ぎてみてびっくりしましたね! 思い描いていた不幸シミュレーションに反して意外と幸せな状況でした(笑)。
私もいままで色々ありましたが、今が一番幸せです。初めてなんのトラブルもないんですよ(笑)。 ウサギとカメじゃないけど、一生懸命背中に荷物背負ってきて、時間はかかったけどよかったなーと思って。

今が幸せ、って、いろんな過去があるからこそ深く実感できることでもありますよね。ところで、それだけいま大切な方々との時間を積極的につくっていらっしゃるということで、生活の中から省いてしまっていること、しなくなったことってありますか?

ショッピングの時間はほぼ取らないですね。30代くらいからずっとですけど、特に自分の着るものは買わないなー。娘と一緒に娘の服を買いに行ったりするショッピングデートはしますけどね。ウィンドーショッピングが楽しいとかよくいうけど、私は人がつくったものを眺めて1日がおわってしまうなんてありえないもの!
この年にもなると似合う似合わないは自分が一番わかるし、撮影でどうしても必要な服とかは海外に行ったついでに走り買いですね。男の人って大抵そうだと思うけど、女の買い物になんて付き合ってられないじゃないですか。高須さんが特にそうで、私が服をさわった触った瞬間「うん、それでいい!それ買って!会計して!」とか言うの。それで「いや、他の色はどんなのがあるか見たかっただけなんだけど」っていったら「じゃ違う色も持ってきて。それも会計!」で一瞬で終了…。そんなに色違いで同じ服があったって仕方ないっつーの(笑)!! もちろん試着もナシ。それで1年持たせてますね。
あとはほぼ連日ジャージですから! 10年くらいいつも同じジャージ着てることがバレて、ユニクロの方が「いつも同じジャージで映っていらっしゃいますが、ぜひ新しいのも着てみてください!」って送ってくれたりしちゃうくらい(笑)

男の人は女の買い物には付き合ってられないってよくいいますよね。それにしても高須先生の買い物、男前すぎ(笑)! 高須先生とは、どんな時間を過ごされてるんでしょうか?

ふたりで旅行によく行きますね。彼がいろいろなところに行きたいタイプなので。最近ではダライ・ラマ猊下が高野山にいらっしゃったのでお目にかかってきました。
次はグルジアに行くのかな。結構治安悪そうだけど、「私トルコ行ったことない」、って言ったら、「じゃあイスタンブール経由してあげるから」、って言われてそれにつられちゃった。彼といると退屈することがないんですよ。次から次へとトラブルと何か面白いこと持ってくる人なんで(笑)。
そういえば、この前ソチオリンピックを見に行った時も、高須さんがカーリングのチケットなくして大ゲンカしてたんです。そしたらそれがYahooニュースのトップ画面に「高須氏、西原とソチで大ゲンカ! チケットなくす」ってアップされちゃって。息子が学校で「おーい、お前の母ちゃん大変なコトになってるそ~!」って言われたみたい(笑)。
子どもが一番多感な時期に母ちゃんが男つくっちゃったもんだから、こんなこともよくあるんですけど、幸い自由な学校で先生もいい方だから助かってます。
母親が男と地球の裏側で大ゲンカ、っていうビミョーなネタを学校で担任の先生から聞くってどうよ!? って思いますけどね、自由な校風のいい学校なんですよ。

子供たちは、毎日ニコニコ笑ってお友達とも楽しそうに過ごしていて。特に勉強が出来るってわけじゃないんですけど、もうそれだけで親としてはありがたい。
PTAとか、これでも昔はきちんとやってたりしてたんですが、大事な子供を置いてまで長時間の会合に出る、ってどうなの? と思って。そういうのも一切やめちゃいましたね。
子どもたちに朝ごはんとお弁当つくって、夜は家族で外食してみたり。そういう時間も幸せですね。育ちざかりの男の子には炭水化物と肉を与えておけばいいんです! 息子も「今日はなんの肉~?」って嬉しそうに帰ってくるんですよ。
肉星人なもので、一回お肉ナシでおかずに酢の物出したら家出しちゃいましたからね(笑)

そんな長男も留学が決まってしまって、連載のネタもなくなるなー、なんて言ってたら娘が「私がいろいろやらかしてネタを提供するよ!」って言ってくれました(笑)。

御嬢さん、頼もしいですね! 今後の連載も楽しみです。一時期、ホラー作家の岩井志麻子さん、編集者の中瀬ゆかりさんとのユニット「熟女キャッツアイ」が話題になりましたが、女友だちと過ごしたりする時間もあったりしますか?

「熟女キャッツアイ」ねー、全然活動してない! だって怖いでしょー、この3人でレオタードきてさー(笑)。このユニットの仲間もそうだけど、いろいろあっても、きちんと働いて稼いで、いまは幸せっていう人がいいよね。志麻子ちゃんなんて、まさにいま、新しい彼氏のキンちゃんに夢中でとっても幸せそうだし。やっぱり自分で稼いでる女は強い! 

そういえば私は貸し倒れ名人。小さいころから地元で一緒に育ってきたようなコで、ヤンキーの男と付き合ってデキ婚して、田舎に残って暮らしてると思ったらいきなり電話がきて「旦那に殴られていま血まみれで出てきた!」とかいうコもいるからね。そんな電話があると、「はいはいすぐ振り込むから!」、って100万円単位で貸してあげちゃうの。当座はそれでなんとかなるし、逆に返しづらいのか連絡来なくなっちゃうしね。変に付きまとわれちゃうよりさっぱりするでしょ、お互い(笑)。

まあ、そんなことしてるから貸し倒れ金が2000万くらいあるんだけど、私の中では”お餞別”という気持ち。一緒に幼少期を過ごしてきた、ということに対してのね。

地方の美人て、地方で一番イケてるヤンキーと付き合ってヤラれちゃう率が高いんですよ。
16でデキ婚して18で捨てられて20歳でまた次のヤンキー旦那に殴られて、っていうすごい負のスパイラル。“地方で一番イケてるヤンキー”って、裏を返せば“最強のバカ無職男”になりうる素材ですから。そんな男と結婚して、オトコが稼がないって言って罵って子供にあたって、別れたと思ったらまた次の依存できる男とくっついてるの。その無限ループの不幸加減たるや、私がずーっとシミュレーションしてきた”不幸の最高値”なわけよ。
だからもう若いころからそのループに自分がハマることだけが怖かった!
その恐怖心があるから、「私は絶対そこにはいかない!」という一心でガムシャラに働いてきたんです。
<人が人であるためにはすごくお金がいる。だから絶対に働いていなければならない!>
それだけは幸せになりたいと思ってる後輩女性たちに絶対言いたい!
息子にも「嫁をもらうなら絶対家庭的な女なんか求めるなよ」っていうのは言ってますね。
あなただけが頼り、なんていって、そんな全力で依存してこられても困るでしょ。おうちで焼いた手作りのおやつなんていらないんだから(笑)。
結婚って”フェアトレード”ですから。結婚相手として年収500万の男がいいと思うなら自分が500万の年収の女になれ、医者の旦那が欲しければ自分が女医になっとけ、ということですよ。仕事して稼いでさえいれば、ダイヤモンドだって自分で好きなの選んで好きな時に買えるんだから。

なるほど! 不幸のスパイラルにハマらないための自立。同じ女性としては心に染み入ります。いま、ご自身のとって大事な存在に囲まれている最高に幸せな状態、とのことですが、今後の時間の過ごし方や生き方についても考えられていたりしますか?

いまは、こうしてすべてのバランスが絶妙にとれているすごく貴重な時間。すべてのバランスが崩れるときってあっという間だからね。私だってそれこそ脳梗塞とかやっちゃうかもしれないし、もしかしたら母がぼけてしまうかもしれない。
兄とはもうシミュレーションしてて、こういう状況になったらこうしよう、みたいな段取りはしてますね。家族の中に一度死人がでたことがあるとね、やはり考えますよ。亡くなった夫がいろいろ教えてくれたんだと思います。

あとは、人に嫌われなければなんとか生きていけると思うんです。けどたまにすっごい嫌われてる外道が意気揚々と稼いで楽しく暮らしてる、とかキョーミありますね。 
私そういう人を観察するのも大好きなんです、イタい人マニアなんで(笑)
観察してるどころか、たまに間違えてものすごく近寄って大けがしたりもするけどね。

人生誰かのせいにして人を恨んでるだけじゃ人もお金も離れちゃいます。
よく、定年退職して居場所がない、とか、働いて家に帰ってきても会話がないって嘆くお父さん連中も多いでしょ。だって仕方ないよね。いなかったんだもん、家庭という場所に。
働いて稼がなきゃいけなかったとはいえ、私はこの先の人生そんなふうにはなりたくないし、大事な人たちを大切にしたい。一緒に過ごしたい。すごくシンプルなことです。
そのために今までガッついて仕事を一生懸命してきたんだなーと。
これは、亡くなった夫の鴨ちゃんが残してくれた思いでもあります。
これからは”ハッピーリタイヤ”と称して、大事な人に囲まれて、ほっこりした幸せなものをゆったりと描いていきたい。だって、40代50代になってまでガツガツと噛みつくような漫画を私が描いてたらイタイでしょ? 私も、50歳を境にやっと大人になれたということですかね。40歳が”不惑”というのなら、私はその”不惑”が人より遅れてやってきたのかもしれないですね。

素敵なご家族、素敵な彼氏に囲まれ、ゆったりとした時間を過ごされている西原先生、今日は貴重なお話をありがとうございました! 他力本願ではなく、自分自身の力で幸せになれる努力をしたうえに成り立つ、幸福のバランス力が大事。それは、不安定な時代だからこそ、男女ともに磨いていかなければならない生きる力なのかもしれませんね。


~日刊大衆取材班より~
“ユーモラスでタフな肝っ玉母さん”のイメージが強かった西原先生なのですが、実際にお逢いしてお話を伺ってみると、あたたかい人柄から醸し出される大人の女性の色気がふんわり。懐かしいようないとおしいような、不思議な魅力をお持ちの方なのだな、と感じました。第一線で走り続け、様々な経験を重ねてきたことによる”したたかに生きる強さ”と”キレイごとではない優しさ”があるからこそ纏える、あたたかな色気なのだろうと思います。

 

 

西原 理恵子(さいばら りえこ)PROFILE
1964年11/1高知県高知市生まれ。武蔵野美術大学在学中よりアダルト雑誌でイラストを描きはじめ、1988年「ちくろ幼稚園」でデビュー。麻雀体験エッセイ「まあじゃんほうろうき」、など体当たりレポートで人気を博す。破天荒な人生を叙情的に描くストーリーマンガの旗手としても知られ、「ぼくんち」で1997年第43回文藝春秋漫画賞、2004年に「毎日かあさん(カニ母編)」で第8回文化庁メディア芸術祭漫画部門優秀賞、2005年に「毎日かあさん」「上京ものがたり」で第9回手塚治虫文化賞短編賞、2011年に「毎日かあさん」で第40回日本漫画家協会賞参議院議長賞を受賞。作品の映画化も多数。プライベートではジャーナリストの鴨志田穣氏と1996年に結婚し、一男一女をもうけた。2002年に夫のアルコール依存症が原因で離婚するも、2006年事実婚のかたちで復縁し、2007年3月20日、平滑筋肉腫で鴨志田氏が死去するまで闘病生活を支えた。現在のパートナーは高須克弥氏で、一般財団法人高須克弥記念財団理事長も務める。

 

 

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